恋は盲目なのね 5

 そこでリーフは深い深いため息をついた。


「そいつぁ、大変だったな」

 オレが言うと、リーフはこくりと頷いた。

 異なる種族が結ばれるには様々な弊害を伴うというが、この二人もそれに直面し、苦労したんだな。

 一目惚れしてさらってしまうなんていう過激な行動には驚きだが、エルフという種族はそれだけ情熱的なのかもしれない。それぞれの種族には、それぞれの価値観があるからな、うん。

 情熱的。そこでオレは思い出した。


「呪いに詳しいヤツに心当たりがある」

「ホント!?」

「ああ。ここからそう遠くないところにいる。連れてくるから、ちょっとまっ――うおっ!」

 オレはリーフに抱えられた。

「案内して。全力で跳ぶから」

「お、おぅ」

 すげー行動的だな。まぁ、オレの足では下手すると丸一日かかるから、そこまで待つ時間ももどかしいだろうが。

「それじゃ、あっちの方に……おわあああぁっ!」

 オレが身体の一部を矢印で模ると、凄まじい勢いでリーフが跳躍した。そしてオレたちは、疾風になった。


「ふむ。なるほどの」

 赤い髪の人間の女の姿に化けた――レッドドラゴンのライラは、ふむふむと頷いている。

「それで、何がわかったの。教えて。はやく」

 早口で、ナイフのように鋭い剣幕で詰め寄るリーフ。姿を変えているとは言え、レッドドラゴンに物怖じしないやつなんて初めてみたな。

「……手短に言おう。この呪いは解ける」

「ホント!?」

 リーフの表情が輝く。

「ワシのやることに口を出さず、おぬしは静かにしておれ。よいな」

「それで彼が治るのなら」

 リーフは静かに後ろに下がった。


『聞こえるか、テリー』

 おぉっ? 頭的なところに、直接ライラの声が響き渡る。

『こいつはちと、厄介じゃわ。とりあえずおぬしをこの男の精神の中に飛ばすから、問題を解決してまいれ』

 は? 問題? それはどういうことだ。

『ま、本人から話しを聞くのが一番じゃろ。いいから行ってこい』

 あ? もうちょっと説明を……。

 有無を言わさず、オレは“飛ばされた”。



 薄暗い、何ともじめじめとした空間だった。

 何かがすすり泣くような音が聞こえる。オレはその方向に意識を向ける。


「誰だい、そこにいるのは」

「ええと、その。オレはテリー。ただのスライムだ。アンタが、リーフっていうエルフのダンナか?」

 オレが訊ねると、黒く染まったような人型がざざざっと後退した。

「ひ、ひぃぃっ! お前、リーフの使いか!? か、帰ってくれ! 僕は絶対に戻らないぞ! リーフが僕のことを忘れるまで!」


 なんだ、この怯えようは。これはどういうことなんだ、一体。


 その瞬間、男の記憶が、オレに流れ込んできた。

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