恋は盲目なのね 3

 わたしの名前はリーフ。世界樹の森の守護者の一人。

 といっても、世界樹が『役割』を終えた今となっては、ただの広大な森でしかないのだけれど。

 『マナの管理者』と呼ばれるモノたちが、魔王の瘴気によって暴走し、大災害を引き起こしてからもう数十年は経つけれど、世界樹の森の再生の目途はたっていない。

 色々な種族――人間たちも定期的に森の再生活動の手伝いに来ていた。

 わたしたち世界樹の森の守護者は、人間を憎んでいた。それまで直接かかわりをもってこなかったわたしでさえ、人間に対する憎しみの気持ちを捨てることはできなかった。

 精霊王は世界を蝕む人間という存在を心から憎んでいた。そこよりうまれたわたしたちは、その心を受け継いでいる。精霊王が消滅した今でさえ、その憎しみは薄れることがない。

 そのはずだった。


「そういや、この大陸の連中も時々、世界樹の森の島に派遣団送ってたっけか。そこにアンタのダンナがいたってわけだな」

「ええ」

「精霊王の呪縛から解き放たれるような、そういうロマンス的なやつがあったわけか」

「いいえ。一目惚れよ。わたしの」

「は、はあ。一目惚れ……?」


 そう。

 一目惚れだった。

 目と目があった、その瞬間に、わたしは恋に落ちた。

 ずっと頭の奥にあった、黒いもやもやのようなもの……そう、あなたのいう精霊王の呪縛みたいなものかしらね。それが一瞬にして消し飛んでしまった。

 誰かを好きになる、愛するという気持ちなんて知らなかったのに、その瞬間に理解できてしまったの。

 まるで奇跡のような出来事だった。

 世界樹の森の守護者と人間との恋物語なんて伝説上のものだと思っていたのに。まさか自分がその主人公になるなんて考えたこともなかったわ。

 どうすればわたしの想いを伝えられるのか。悩んでいるうちに日が経ち、派遣団が帰る時が来てしまった。


「その帰る間際に、自分の想いを伝えたってわけか」

「いいえ。さらったわ。彼を」

「さ、さらった……!?」


 そう。

 さらったの。

 派遣団は彼がいなくなっていることに気づかずに、船で帰っていったわ。


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