第16話 ネーロ軍大襲来
サウスシティの基地は、若き兵士達によって整備され、基地としての機能を果たすようになって、活気に溢れていた。それは、国外追放となったステラを、何としても支え抜きたいという兵士達の想いが強かったからだ。
「レグルス様、最近、監視衛星が、この上空に配備されましたがよろしいのですか?」
通信担当の兵士が、レグルスに尋ねた。
「ライト王国のものだろう。ちょうどいいじゃないか、その映像を使わせてもらえば基地周辺の監視もできる。こちらからもコントロール出来るようセットしておいてくれ」
レグルスは、新司令官としてステラを支えるべく、懸命に指揮を執っていた。
この基地では、エイリアンの宇宙船を本部棟として使い、コスモタワーと名付けられていたが、依然、建物としての利用価値しかなかった。
ステラとユウキは、相変わらず外の丸太小屋に住んでいたが、兵士達が寄ってたかってリフォームし、りっぱな洋館風の家になっていて、彼らはステラハウスと呼んだ。
ステラは、軍の会議などでライト王国に出向いたりと、留守が多かった。十剣士がいない今、ステラの警護はユウキが担っていたが、ユウキ自身は国外追放の身なので顔は出せず、常にステルスモードでの警護となった。
軍では、議長派の一部の幹部によるステラへの悪口雑言が後を絶たず、我慢の限界に達したユウキが、その幹部をボコボコにして、ステラに叱られる事が何度かあった。ある幹部は、
「ステラ、お前は、もはやこの国の王女でも何でもない、国外追放された犯罪者じゃないか、そんなお前が軍の顧問など、到底認められん。即刻立ち去れ!」
と罵った。ステラは反論するでもなく、どんな暴言にも涼やかな顔で聞き流していた。
「ステラ、何故、あんな奴らの言いなりになっているんだ。あれじゃあ、軍の団結もあったもんじゃない。軍から離れた方がいいんじゃないのか?」
放っておけば、アルデバラン家に殴り込む勢いのユウキに、ステラは噛んで含めるように言った。
「あなた、落ち着いて。議長派の幹部に、この戦争の事を真剣に考えている人間はいないわ、自分の利益の事しか考えていないからよ。そんな彼らに軍を任せたら国が滅んでしまうわ。今は耐えて、軍で踏ん張るしかないの。それが、お母さまの期待でもあるのよ」
腹の収まらぬユウキは、師、ロータスを自宅に尋ねた。
ユウキは、ステラに対する、国や、議長派の仕打ちの理不尽をぶちまけた。静かに聞いていたロータスが、彼を見据えて言った。
「それで、どうしたいんだ。アルデバランを殺して何とかなるなら、今から二人で行こうじゃないか。問題はそんな事じゃないだろう。いかに、この国の民を守るかという事だ。今のお前は、その目的感がずれている。ステラの足を引っ張っているだけじゃないか」
ユウキは、自分の誤りを指摘され一言もなかった。そして、今までの我儘な行動を猛省した。
「この国は今乱れている。人の心が乱れる時は必ず災いが起こる。近々、ネーロ帝国の攻撃が必ずあるだろう。すぐに帰って、対策を立てるんだ。アレク将軍とレグルスにも連絡しておく」
気持ちがすっきりしたユウキは、リリーに見送られて、サウスシティへと帰っていった。
サウスシティでは、ネーロ軍迎撃の対策を練り、臨戦態勢を取った。ライト王国でも、住民のシェルターへの避難準備が進められ、首都は地方へ避難する人々などで騒然となった。
数日後、首都の海岸線に、ネーロ帝国の潜航艇、数百に乗った戦闘服部隊三千名の大軍が押し寄せた。軍を率いるのは、ネーロ帝国の重鎮と呼ばれる、将軍ダーク。黒い鎧のようなスーツを纏った巨漢で、大きな槍を自在に操る豪傑である。
ライト軍は、これを迎え撃ったが、ダークの勢いに防衛網は突破され、首都侵入を許してしまった。一度突破されると、なだれ込んで来るネーロ軍の勢いは止めようがなかった。
「ステラ様を呼ぶんだ! 俺たちでは歯が立たんぞ!」
ライト軍の兵士達は、必死で反撃しながら、ステラの到着を待った。
暫くすると、ステラの部隊が到着し、ダークの側面を突いた。
「逃げないで! 私に続きなさい!」
剣を振りかざした、ステラの叫びに、ライト軍が勢いを取り戻し始めると、ステラはダークの前に躍り出た。
「ダーク将軍、私が相手よ!」
「おー、ステラ姫か。いざ!」
ダークの大槍と、ステラのビームサーベルがぶつかり、火花が飛び散った。鎧を纏ったダークの身体は二メートルを超えていて、ステラとの闘いは大人と子供のようにも見えた。その巨体から繰り出す槍の衝撃は凄まじく、ステラはそのパワーに押され、一瞬後退すると、新兵器“羽衣”を起動した。
ピンク色の帯が、ステラの身体の周りを、天女の羽衣のように纏わりついて、ゆっくりとステラを護る様に動いていた。
この羽衣は、触れるもの全てを破壊してステラを護り、攻撃の時は、ピンクの帯が弾丸に刃にと自在に変化し相手を倒す、攻守一体の最強の武器である。
ステラが、羽衣を鞭のようにしならせ連続して打ち込むと、羽衣が掠めたダークのスーツから煙が上がり、ダークはズズッと後退りした。
「なかなかやるな!」
ダークも本気モードとなり、羽衣と大槍が激突すると、閃光と衝撃波が二人を包んだ。凄まじい二人の戦闘に、敵も味方も遠巻きにして見守るしかなかった。
一方ユウキは、攻め込まれた最先端で敵と格闘していた。敵味方入り乱れた現状では音波砲を使う事は出来ず、剣とエネルギー弾で戦うしかなかった。それでも、ユウキの戦闘力は抜きん出ていて、次々と敵を倒していった。
「た、助けて下さい!」
悲鳴のような声の方を見ると、若い兵士が恐怖からか建物の隅で震えていた。ユウキは、周りのネーロ兵を蹴散らして、その兵士を引き起こした。
「新兵か?」
「はい、……今日が初陣なんです」
新兵は、震える声で答えた。
「よし、心配するな。俺の後ろについて離れるな!」
ユウキは、新兵を守りながら戦闘を続けた。新兵は懸命にユウキの背中を追っていく内、ユウキの戦いの動きが分かるようになって来た。
「後方に回り込んだ敵を打て!」
ユウキの言葉に、新兵は、無我夢中で、エネルギー弾を打ち続けた。
「いいぞ! 出来るじゃないか!」
二人は二身一体で回りのネーロ軍を撃破した。
「どうだ、少しは自信が付いたか?」
「ありがとうございます。もう一人で戦えます」
臆病を克服した新兵は、礼を言って自分の持ち場へと帰っていった。
ユウキ達の奮闘で、ネーロ軍を徐々に海岸線へと押し返していくと、そこではステラとダークの戦いが、まだ続いていた。
二人は互角の戦いを展開していたが、ユウキが剣を抜き加勢に入ると、さしものダークも後退し、ネーロ軍は引き上げていった。
今回の攻撃で、首都は大きな被害を受けたが、都民のスムーズな避難行動で、犠牲者は殆ど無かった。ロータスの先見のお陰である。
軍では、ステラ達の活躍が無かったら危なかったと、今更ながらステラ部隊への期待が高まり、ステラへの悪口罵詈は影を潜めた。
その頃、ネーロ帝国の宮殿では、帝王のムミョウをはじめ主だったものが集まり、会議が行われていた。独裁者ムミョウは、五十台で小柄ではあるが、その眼光は鋭く周りの者は彼の顔色ばかりを窺っていた。
「三千の兵を投入しても、ライト王国の首都は落とせないのか!」
ムミョウが、憮然とした口調で言った。
「申し訳ありません。今回も、あのステラを倒すことが出来ませんでした。それから、もう一人、ステラと同じ力を持つ兵士がいました。あの二人を攻略しないことには、前に進めないかと……」
ダークが説明すると、ムミョウが、言った。
「うむ、その男のことを調べる必要があるな。世界制覇の夢を掲げて十年余り、悉くステラに妨害され続けて来た。ステラさえ亡き者にすれば、この戦いは勝てる!」
「最近ステラは、サウスシティに移り住んだようです。そちらを、徹底的に攻撃してはどうでしょう」
一人の幹部が進言すると、ムミョウがジロッと睨んだ。
「ダークにも勝てないものを、今の状態で何度攻撃しても同じだ。新兵器の開発を急げ、最強の暗殺部隊を作るんだ。手段は選ぶな、今度失敗すればお前たちの首をもらうぞ!」
ムミョウは、そう言って足早に部屋を出て行った。
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