第4節 人の痕跡と、父との思い出
人がいた痕跡が見つかったのは、探索を開始してから一週間後のことだった。
「アキナー! こっちこっち!」
「ちょっ……トワちゃん、待って、早い……」
「もー、アキナは体力ないなぁ」
ようやくトワちゃんに追いつくことができた。
彼女の体力には全く敵わない。
ぜぇぜぇと息を切らしたあと、ふとトワちゃんの足元にあるものが目に入った。
思わず目を見開く。
そこにあったのは焚き火の跡だった。
近くに小動物の骨が落ちている。
ここで誰かが夜を明かしたことを物語っていた。
私が箱庭に来て初めて見つけた、人間のいた痕跡だった。
「誰かが獲物を捕らえて、ここらへんで食べたんだなー。アキナのお父さんかもしれないな?」
トワちゃんの言葉を耳にしながら、私は焚き火の跡へと近づく。
そこにあった薪は全て灰になるまで燃やされていた。
焚き火の最適な処理方法だって、お父さんが言ってたっけ。
よく見ると、近くの草むらに蔦で作った縄やナイフで切り込みを入れた枝もあった。
小動物を捕まえるための罠を張ったんだ。
蔦で作った輪の中を動物が通ると、つっかえ棒が取れて宙吊りになるようになっている。
「変わった罠だなぁ」
「これ……お父さんが私に教えてくれたやつだ……」
幼い頃、お父さんが何度も森に連れて行ってくれたっけ。
私のそこで、冒険に必要な知識を教えてもらったんだ。
焚き火の処理の仕方。
獣を捕らえる罠の作り方。
毒のあるキノコや植物の知識。
冒険に必要なおおよその知識は、お父さんが教えてくれた。
同じ歳の女の子たちがおままごとや本を読んでいる時に、私は火の起こし方や動物の捌き方を学んでいた。
私は子供のころから活発だったから、抵抗感はなかった。
むしろ、お父さんと一緒に過ごせたことが嬉しかった。
「お父さん、よくこんな感じの罠の作り方を私に教えてくれてた。それで、外の世界の凄さや、冒険の面白さを話してくれたんだ……」
「へぇ」
目を瞑れば、幼少期の思い出が鮮明に呼び起こされる。
「私の故郷は自然が豊かで、みんな畑仕事をして暮らしているの。ずっと同じ村で暮らすことが当たり前だったんだけど、お父さんはそうした生活が好きじゃないみたいだった――」
※
お父さんは、人類がまだ足を踏み入れていない場所を調査することが仕事だった。
冒険から帰ってきたら、どんなものを見て、どんな世界があって、どんな人がいたのか、決まって土産話をしてくれた。
外の世界について話すお父さんを見るのが、私は好きだった。
でも、私が大きくなって畑仕事を手伝うようになってからは、考えが変わった。
私とお母さんは真面目に農作業をしているのに、お父さんは自分の好きなことばかり。
一ヶ月以上戻ってこないことも珍しくなくて……。
いつも心配ばかりかけるお父さんのことがだんだん嫌いになった。
お母さんはいつもお父さんのことを考えていた。
私なんて全然見てくれなくて、家族の関係もどんどんチグハグになって行って……。
それも全部、お父さんのせいだって思うようになったんだ。
「今度の仕事は大きいぞ! ようやくあの箱庭の調査員に選ばれたんだ!」
「あなた、どうか気を付けてくださいね」
「ああ、すごい成果を上げて帰ってくるよ!」
お父さんが箱庭の調査に出てすぐ、お母さんは病気で倒れてしまった。
連絡を入れたいけれど、お父さんの行方はとうとうわからなくて。
ベッドに座るお母さんは、いつも寂しそうな顔で窓から外を眺めてた。
私はその姿を見て、冒険家を――お父さんを軽蔑するようになった。
こんな風に、大切な家族を放ったらかしにして平気な人になりたくないって、そう思った。
それなのに――
お母さんが死んだのを見て、ジッとしていられなくなった。
見つけ出して必ず一発ぶん殴ってやる。
お母さんのことも、私のことも考えず、好きなことばかりやっているお父さんを。
そう思って、私は箱庭に向かう調査船に乗り込んだ。
※
「皮肉だよね。冒険家のお父さんを軽蔑した私が、今こうして冒険家の憧れの地に立ってるんだから」
悲しさを誤魔化すために無理やり笑みを浮かべると、不安そうにトワちゃんが私の顔を覗き込んでいた。
「アキナは箱庭に来るの嫌だった?」
「ううん。ここに来られて良かった。だってトワちゃんに会えたんだもん。それに――」
私はそっと目を伏せる。
「思い出せたから。私、本当は冒険家になりたかったんだって。だから今、大変な状況だけど、少し楽しいんだ」
私の言葉を聞いたトワちゃんは、パッと花が咲いたような笑みを浮かべた。
「トワもアキナに会えて嬉しい! アキナに会えて良かった!」
「うん、ありがとう、トワちゃん」
私はそっと、地面に落ちた蔦の縄に触れた。
「……もしこの罠がお父さんの作った物だとしたら、きっとこの先にいるはずだよね。でも、ここから先は木が多くて森みたいになってるし、何でわざわざこんな場所を通ったんだろう」
「あれを目指したのかも」
トワちゃんがどこか遠くを指差す。
視線を向けると、遠方に伸びる大木が目に入った。
かなり遠くにあるのがわかる。
ただ、こんな遠くからでも視認できるほど大きい。
あんなに大きな木は、北の大陸でも見たことがないかもしれない。
確かに、お父さんがあれを見つけたのだとしたら、直接見ようとすると思う。
「行ってみよう、トワちゃん」
「うん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます