第20話


アキは追ってこなかった。

後ろを振り向かなかったから、あれからアキがどうしたかは知らない。


でも、追っては来なかった。

1人で家に着いた。

玄関の前で少しもたもたしてみたがアキは現れなかった。


お母さんがリビングから「おかえり」という。

私も靴を脱ぎながら「ただいま」という。

「たくみくん?いい子だね~かっこいいし」

「うん、そうでしょ。」

「アキには言った?」

「なにを?」

「彼氏ができたって」

「なんで言うの?」

「親友だからじゃん」


「言ったよ」

そう言って階段を走って上がった。


ベッドに寝転ぶと、さっきまでいた拓海くんの匂いがした。

当たり前にぬくもりはなくて、でも拓海くんをかすかに感じた。

私を選んでくれた拓海くん、私に優しい拓海くん。

拓海くんがいた場所を見つめる。


階段を上がってくる音がした。

ずっと一緒にいる人や、よくこの家に来る人の上がってくる足音って、、


なんですぐに分かってしまうんだろう。


「アズ、入っていい?」

「だめ」

「は?なんで?」

「入ってこないでほしい」

「入る」


そう言ってズカズカと入ってくる。

私はベッドに寝転んだまま、目だけで見ていた。


「怒ってる?」

「なんで?」

「いや、なんとなく」

「別に怒ることなんてないじゃん」

「俺、さっきの続きしたい」

「しないよ」

「するよ」

「しないよ」

「するから」


アキの言うことは必ずだった。

私はいつも流される。

アキの言葉が絶対だった。

私の反論なんて聞こえていないのように。



アキの舌はスムーズに入ってきた。

流れるようなキス、器用に動く指。

全部が私の体を反応させ、ピクつかせる。

首筋、鎖骨、胸、お腹、下半身、全てを舐め尽くされる。


「なにこれ。」

アキの指がそこに触れる。

「跡なんてつけんなよ」

アキは勝手だった。

まるで自分のもののような言い方だった。

そして続けた。


アキと何度もイッた。


そんな自分が嫌だ。



アキはこの日、うちに泊まった。



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