その中で知哉ともやはトモカヅキが体験した、この香御堂こうみどうでの出来事を知り、どうせならと駄目元でみことに聞いてみる。

ことわりを無くしているんだったら、いっそのことこのままここで働くっていうのも選択肢に入るとか?」

 みことは突然の事に煙管を咥え、瞳を見開いて驚きの表情を見せた。

 一番初めに出てきた感想は「なんて物好きな」二番目に出てきたのは「馬鹿なのか? 」だった。

「トモカヅキが香物に興味があるんだ。俺もちょっと興味があるし、なにより俺が居ないとこの家、塵屋敷になるんじゃないの?」

「ふん、生意気な。だが、便利なアイテムは手にしておくのが一番だ。ただし、一度家に帰れ、それから親の説得は自分でやれよ」

 みことの言葉に頷いて知哉ともやは体が浮いていくような感覚と沈んでいる感覚、二つを感じながらその場で瞳を閉じる。

 静かに寝息を立てる知哉ともやに布団をかぶせ「時間厳守だぞ」と一言声をかけてみことは自室へと向かった。


 ゆらりゆらり揺れながら僕は水底から水面へやってきた。

 ずっと冷たい水底で、ただ人間がやってくるのを待つ日々は僕を疲弊させていく。

 人間が来ない限り水面に上がってはならない、そのことわりを破り、恐怖と不安を抱きながらやってきた水面で一人の輝く男の子を見つけた。

 じっとりと陰湿な瞳を向ける僕にその輝きは優しく問いかける。

 つかもうとした輝きは掌をすり抜けて、さらなる白い輝きの中に消えて行った。

 そして僕は沈む。

 彼を待つために僕は暗い水底へ再び沈んだ。

 僕を呼ぶのは海の声。

 仲間と理のその声が僕を呼ぶ。

 けれども僕は応えることはせず待ち続け、輝きを手に入れた。


「なぁばっちゃ、トモカヅキは寂しそうだったで。誘いよるのは寂しいからやないんか?」

「どうじゃろうなぁ。そうかもしれんが、あやつらとわしらは住む場所が違うで、当然考えも違う。仲良く等してはならんし、できるもんじゃない」

「そうかなぁ、俺はそうは思わんけど」


 そう言葉を吐き出した時の困ったような、悲しいような、そんな祖母の笑顔が瞳の裏に焼き付いた。

 祖母は俺がこうなることを分かっていたのではなく、もしかすると祖母自身が俺と同じような、だったのかもしれない。

 そして、祖母は俺とは違う結論の中にいたのかもしれない。

 祖母は言った。1足す1は1だと。

 祖母は2には成れなかったのではないだろうか。

 きっと俺も香御堂こうみどうが無ければ1足す1は1のままだったかもしれない。

 トモカヅキが俺の中に存在するようになった数日後、一度家に帰ってアルバムを見ながら、祖母が俺を悲しげに見つめている写真を眺めて何故だかそう思ってしまった。

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