「生身の体って言っても別に人間の体を頂戴しているわけじゃないのよ。今は人に化けているに過ぎない。変化を解けば大きな大きな白狐びゃっこ様の御成おなりだよ。なんならここで解いてやってもいい」

 鋭い瞳を向けてくる廉然漣れんぜんれんの言葉に道祖土さいどが「家が壊れるので実体で大きくなるのはやめてください」と言えば廉然漣れんぜんれんは舌を鳴らしてそっぽを向く。

「実体っていうのは人間じゃなくて、狐ってことか。でも単なる動物の狐じゃ無いんだろ? ってことは神様なのか?」

「それは違うね。あくまで神使しんしは神の眷属けんぞく、使いの者であって神様ではないんだ。ただ、例外はあってね、辻堂つじどう宿香御堂やどこうみどうであった大神おおかみ様は眷属けんぞくでありながら神様っていう特別な存在なんだよ。昔から大神おおかみ犬神いぬがみ信仰というのがあって、それらは狼を神として祀っている。眷属けんぞくでありながらも神っていうのは大神おおかみ様以外いないだろうね。だから廉然漣れんぜんれん様の眷属けんぞくに備わっている力は限界があるけど、大神おおかみ様には限界は無い。それは使いではなく神そのものだからってことなんだろうけどね。ただ神仏っていうのは神話があり、民間信仰があり、様々な要因で人々に認知されてきた。人間が神様仏様と崇め奉っていて、強烈な信仰から会うことも恐れ多い神様仏様だっているんだ。そんな中でも民間信仰として身近な存在でありながら、神としての力を持つ大神おおかみ様に今回榊さかきさんが辻堂つじどうを会わせたのは、何も知らない辻堂つじどうが今みたいに失礼なことをしても大目に見てくれるだろうってこともあるんじゃないのかな」

「失礼って。知らないんだからそれくらい仕方ないじゃないか」

「その理屈は人間だけの理屈。辻堂つじどう、神仏って存在はね、至極勝手で至極自分本位なんだ。相手が知っていようと知っていまいと、自分がどう感じ取り考えるかが優先される、上位の神になればなるほどね。民間信仰の神は一番人に近しい存在だから、ある程度は人に近く優しさがあるけど、そうじゃない神は酷く人に厳しいのもいる。言ってみれば会社と同じさ。辻堂つじどうは自分の働いている場所の社長に対し偉そうな態度はとらないだろ? 社長だって随分下の者にそんな態度を取られれば良い気持ちはしない」

 勉強は苦手であり、全ての力が筋肉に行っていると言われ続けた辻堂つじどうにとって、道祖土さいどの話はある程度は理解できても今一つピンとこない。

 理解しようと頑張れば頑張るほど頭がこんがらがってヤカンが蒸気を出し始めた様に頭のてっぺんから湯気が出そだった。

 ただ分かる所は、

 廉然漣れんぜんれん神使しんしという神様の使いの狐で今は人間に化けている。

 神様仏様は人が思っているほど温厚で優しい存在ではなく、人以上に繁文縟礼はんぶんじょくれいである。

 というどっちにしても少々現実離れしている事柄ぐらい。

 沸騰しそうな頭を軽く拳で叩いて、大きく深呼吸し道祖土さいどに確認する様に聞いた。

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