道祖土さいどは自らが望んだ場所のさまざまな事柄を近くにある道祖神どうそじんを通して知ることが出来る。

 恐らく宿香御堂やどこうみどうでの廉然漣れんぜんれん辻堂つじどうのやり取りも見ていたのだろう。

 トイレを出て辻堂つじどうは頭が少々混乱してはいたが、大神おおかみに言われた通り廉然漣れんぜんれんに聞きたい事の質問をしていた。

 その際、廉然漣れんぜんれんに、

「力をなくすと考えるのは止めた方がいいわね、いっそのこと私の弟子になりなさい」

 と言われたのだ。急なことに訳が分からず、また大金を積んでと言うわけではないが、言っていることは百目鬼どめきと変わらないと感じ、思わず「道祖土さいどに相談してみる」と口にした。

 道祖土さいどの名前が出ると廉然漣れんぜんれんは瞳を見開いてすぐに微笑みを浮かべ「なんだ、あの子の知り合いなのね」と抱きついて来たのだった。

道祖土さいど、この人本当に信頼できるのか? こんななりだし、言っている事は百目鬼どめきと変わらないと思うんだが」

「しっつれいね、この私をあんな下衆女と一緒にしないでほしいわ」

 辻堂つじどうの何気ない一言に廉然漣れんぜんれんは目くじらを立てて怒鳴り、道祖土さいども少し困った表情になった。

「そうだね、一緒にするのはまずいな辻堂つじどう。今は違いが分からないから仕方ないけど二度目は無いと思っておいた方がいいよ。百目鬼どめきはね、東洋西洋問わず様々な術にたけているけれど所詮は人間なんだ。もちろん自分も辻堂つじどうもね。でもこの廉然漣れんぜんれん様は違う、神の使い、狐の眷属けんぞくだから失礼な事は言わない方がいい」

「狐? お稲荷さんとかの狐か?」

「そうだよ。辻堂つじどう神使しんしというのを知っているかい?」

 そう聞かれて辻堂つじどうは考え込んだが、そう言った事には全く興味なく育ってきたため良く分かない。

 道祖土さいどのお稲荷さんの様な物という言葉から神社などの入り口に置いてある動物の石像がそうなのか? と検討を付けるくらいしかできなかった。

 神使しんしという物と廉然漣れんぜんれんにどういった関係があるのか検討もつかない。

 思った通りの反応に少し笑みを浮かべながら道祖土さいどが説明する。

神使しんしというのは神様の意思を代行するため、現世うつつよに接触する手段の一つとして使わされる動物の事を言うんだ。神使しんしは神仏によってそれぞれ違ってね、それぞれの神にはそれぞれの眷属けんぞくが居る。廉然漣れんぜんれん様は自身が眷属けんぞくで狐様なんだよ」

「狐? とてもそうは見えないし、さっき運転免許証持っていたぞ」

「あぁ、廉然漣れんぜんれん様は少々特別で変わり者なんだよ。俗世ぞくせの全ての物に興味があって興味を持てば実践する人。それに実践できる生身の体を持っているしね。驚くのはこれで住民票まであるんだよ、もちろん正規の手続きを踏んだものじゃないけどね」

 道祖土さいどの言葉に改めて廉然漣れんぜんれんを見つめた辻堂つじどうは、自分みたいに他の人を乗っ取ったのかと考えていたが、その考えが顔に出ていたのか廉然漣れんぜんれんはさらに機嫌を損ねる様に眉間に皺を寄せた。

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