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「そこら辺にある、積み上げている箱は勝手に触るんじゃないぞ。中身を見ようなど以ての外だからな」

 監視カメラでもついているのだろうか? どこからどうやって片付けるなど一言も尊には宣言していない知哉ともやは思わず電話の声に言葉を詰まらせる。

「どこかから見ているんですか?」

 覗き見でもされているのなら気分が悪いと聞けば、

「覗き見なんて下品な真似を私がするわけがないだろ。倫子りんこから見た目以上にお前には少々神経質な所があると聞いている。という事は、あの部屋の現状を見たお前は片付けから始めるだろうと思ってな。しかも、恐らく一番見て散らかっているとわかる台所付近から。そうなるとまずは山積みになっている段ボール箱をどうにかしようと中身を確認する作業をしそうだと思ったんだ。当たったか?」

「見た目以上って、母さんも余計なことを。(あの部屋の現状と言うなら自分であまりにも穢いという事は理解しているのか。だったら綺麗にすればいい物を)」

「私も忙しい身だ。当然手が回らないところはあるし、手を回さなくともよい場所も生まれる」

 まるで心の中で思ったことを読み取られたかのように返事をされ、驚きながらわかりましたと見ないことは了承した。

 だがこのままではあまりにも台所が狭い、どうにかしてくれと頼むとみことは仕方がないと言わんばかりの溜息と声色で言う。

「触るのは許可しよう。台所に置くのが駄目だと言うなら私の部屋の前の廊下に並べておいてくれればいい。だが、触るだけだ。決して箱を開いたり中を覗いたりするなよ」

「そうやって念押しされると覗きたくなるのが人情ですが……」

「ふん、見ないことは了承したんじゃなかったのか? それに人情など知ったことではないし、人のいうことを素直に聞かず、どうなっても自己責任だときちんと後始末から何から責任をもって出来るのならば好きにしろ。私が念押しするのは、お前には絶対に責任を取れないと思うからだ」

「絶対、ですか」

「あぁ、絶対だ。母親にこの場所に送り込まれている時点で責任などというものが取れるはずがなかろう。それに、そう言う揚げ足取りの様な真似をするのであれば、己で責任が確実に取れる力を持ってから言うんだな。全く実力が伴っていないのに言うのはただ滑稽なだけだ」

 この何の変哲もないダンボール箱を開けたところでどんな責任を取らされるのか。たかがダンボール箱の荷物に大げさなと半分呆れる様に息を吐いた。

「責任……(雇い主だからなのか、終始偉そうな物言いだな)」

「何の変哲もないダンボール箱だと思っているなら考えを改めろ。見た目通りであることなど世の中ではまれなこと、そんな事では今後も見た目に騙されて酷い目に合うことになるぞ。私の物言いに不満があって嫌だと思うならママの所に帰ればいい、ここで働くも働かないもお前の自由、掃除も同じだ。私は別にかまわん」

 自分の口から出てきている言葉に対してなのか、それとも心の声に対しての言葉なのか。

 なんだかわからなくて頭が混乱してきた知哉ともやは、みことの言葉が頭の中に響くほどに乗り物酔いをしたときのような気持ち悪さが広がっていた。

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