第六章 男の娘と女の子の魔法

第28話 出会って五秒でスカートを脱がす!

 翌日の放課後。

 嬉々として部室に向かおうとするオレの前に、ひいなが立ちふさがった。


「ねえ、ちょっと、蓮児に話があるんだけど」

「わりぃ、今日部活いそぐから、夜にでも電話して」

「そんなこと言って、夜は夜ですぐ眠いとかで切っちゃうじゃん!」


 めずらしく食い下がってくるひいなを華麗なステップで交わすと、オレははやる気持ちを抑えきれず部室に向って走る。

 昨日オレが異能力卓球戦に勝利したおかげで、部長は女装を止めると約束してくれた。

 それどころか、まじめに部員を探して大会にも出るとも。

 部長本人の約束はアテにならないけど、木場先輩があそこまで言ってくれたからには間違いないだろう。


 部室のドアの前で、大きく一つ深呼吸した。

 今日からは、ちゃんと卓球の練習ができる。そしたらオレはまだまだ強くなるだろう。

 いつかきっと、あの高橋英樹と再戦できるかもしれない。

 もう一度戦えたら、今度こそオレの全部をあのオリンピック候補にぶつけよう。

 このドアは、輝かしい未来への扉なんだ。

 

――ガチャリ


 オレは、期待に胸を膨らませながら部室のドアを開けた。


「あ、あれ? 羽根園部長」


 しかし、そこに広がっていたのはいつもと変わらない光景だった。セーラー服姿の部長が、ヤル気なさそうにソファーに腰掛けている。

 ウェーブの掛かったロングヘアーに、ばっちり上を向いたまつげ、スカートはコレでもかというくらい短く、どこから見ても女の子にしか見えなかった。

 むしろ、いつもより女装に気合いが入ってるんじゃないのか?

 プチン、と音を立てて頭の中で何かが切れた。

 一度も口にしたことはないけれど、オレにとって部長の女装は外見的にはストライクど真ん中だった。

 その理想の美少女の正体が変態男子高校生だなんて、なんという不幸か!


「羽根園ぉおお!」


 バンとテーブルを叩いた。驚いた部長は声を裏返らせて答える。


「え? あ、はい?」

「一体、なんちゅうカッコしてるんですか?」

「なんちゅうカッコって言われても、これが普段の服装なんだけど……」

「ええ、そうでしょうよ。でも昨日の約束したじゃないですか。もう女装はしないって」

「あー、それはキミの勘違いというか、誤解というか」

「誤解も十回もない! なんですか、その短いスカートは! 今日という今日はもう許しません! 脱いでください! 今ここで着替えてもらいます!」


 オレは部長めがけてタックルし、床に押し倒した。

 それからおもむろにスカートのホックを外し、強引に引きずり下ろす。腰に巻かれた短い布は、あっさりと膝から抜けて宙に舞った。


「ほぉら、観念してください!」


 卓球部ではいつも女装している羽根園部長だが、彼は本当の意味でのオカマじゃない。

 その証拠に彼の女装は表面だけで、穿いているパンツはしっかり男物のトランクスだった。部室内で着替えるのも日常茶飯事なので、もう何回も目にしている。あまりセンスがいいとは言えないディズニー柄がご愛用だ。


 ――ところが、


 スカートを脱がされてむき出しになった部長の股間は、ピンク水玉の小さな三角形の布に覆われているだけだった。

 部長は顔を真っ赤にしてしゃがみこむと、甲高い悲鳴を上げる。


「キャアアア! な、何するのよ、ヘンタイ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る