第27話 目覚めし異能力「クラーケンマスター」!
オレはもう一度卓球をやりたかった。
たしかに、一度はやめようと思った。中学三年間あんなにつらい練習を積んできたのに、高橋英樹に散々な負け方をしたのが悔しかったんだ。
だけど、木場先輩と対戦してみてわかった。
オレより上手なやつは、オリンピック候補以外にもたくさんいる。一度や二度負けたからって気にしていたらきりがない。残念ながら、オレがどんなに頑張ったとしてもオリンピックに出れるようにはならないだろう。
でもそれがなんだ。オレは卓球が好きなんだ。
だからもう一度、おもいっきり卓球に打ち込みたかった。
だが、しかし……
(絶対に、コレはオレがやりたかった卓球とは違う! オレはスルメで
卓球台に這いつくばってボールを追うオレ目掛け、部長は勝ち誇ったように野次を浴びせかけた。
「ヘイヘイどうしたどうした、おまえも早く異能力を発動させていいんだぞ!」
――それから十五分後。
「へえ、案外やればできるもんなんだなあ、スルメ卓球」
木場先輩が、呆れたような声をあげた。
11対9
ギリギリで、オレの勝ちだった。ゼエゼエと肩で息をしながら答える。
「できるもんなんだなあ、じゃないです。メッチャしんどかったですよ。
木場先輩は肩をすくめた。
「じゃあ、三階堂の異能力は『クラーケン・マスター』。イカを自在に操る能力ってことか。どうするユウト? まあこれで、卓球の腕前は三階堂が上、ってことでしょうがないよな」
まさかの敗北を喫した部長は、部室の隅で膝を抱えていじけている。
「違うもん、今のは異能力卓球だもん、普通の卓球なら負けないもん」
「ユウト、往生際が悪いぞ。ちゃんと負けを認めろ」
しまった。
すっかり忘れてたけど、卓球勝負の一番の目的は部長に勝つことじゃなくて適当に負けて部長をヤル気にさせることだった。
すると突然、部長がスックと立ち上がってオレのほうを振り向いた。
後輩に負けたのがよほど悔しかったのか、顔を真っ赤にして半べそを掻いている。その表情をみていると、まるで女の子を泣かせたみたいで気まずくなった。
「いや、別にいいっすよ。すみません。なんか、オレもムキになっちゃって」
「俺の負けだ。こうなったら、なんでも一つ言う事を聞くから言ってみろ」
「別にいいですって」
「いいから言え。男と男の勝負に負けたんだ。覚悟はできてる」
男と男の勝負って、その格好で言われても全然ピンとこない。
でも、この際だ。
言うだけ言ってみることにした。
「じゃあ、お言葉に甘えて、オレ、入部した次の日木場先輩と勝負したじゃないですか。あのときは、もしオレが勝ったら卓球部を辞めさせてもらうつもりだったんです。高校では卓球なんてやるつもりなかったし、脅されて無理やり入部させられただけだったし」
「あー三階堂クン、その件についてはだねえ」
「いえ、もういいんです。入部させられたのは無理やりだけど、オレやっぱ卓球好きですから。だから今は、せっかく入ったこの男子卓球部を盛り上げたいんですよ。部員も増やしたいし、大会にも出たい」
オレの言葉を、部長があわててさえぎった。
「言う事聞くのは一つだけだぞ」
もちろん、願いは一つに決めている。
「はい、だから先輩、女装止めて普通のカッコして下さい」
「えっ?」
「そのほうが、きっと部員集まりますから」
「んん……それは……」
口ごもる部長の肩を木場先輩が叩いた。
「しょうがない、何でも言う事きくって言ったのはユウトだからな。よし三階堂、コイツには自分が責任持って女装をやめさせる。それに部員や大会のことも考えておくよ」
「ホントですか!」
「もちろんだ。なあ、ユウト」
すると羽根園部長はしぶしぶ肯いた。
「わかったよ。もともと俺の女装は部員を集めるために始めたことだからな。止めたほうが集まるってんなら続ける理由はないわけだし」
こういうのをなんていうんだろう。
瓢箪から駒とでもいうんだろうか。
部長は女装を辞め、木場先輩は卓球部を復活させるために動いてくれることになった。
(やっぱり熱意を持って行動すれば、物事は上手い具合に行くものなんだなあ)
と、そのときオレは暢気に考えていたんだ。
まさかこのあと、あんな出来事が起こるとは思いもせずに……
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