そのままです

「スライムは動いてないが油断するな」

 あなたは仲間の言葉も聞かず斧を握ったままスライムと向かい合っていました。

「あなたは強いね」

 声がしました。

 しかし、それはボイの声でもマナの声でもドゥーニャの声でもありませんでした。今までに聞いたことのない高く可愛らしいそれでいて耳の痛くならない声。おかしな事に周りにはあなた達以外の人間はいませんでした。

「僕、スライムだよ」

 スライムを見ると体を揺らしてアピールをしている様子でした。

「本当か!」

「どうした!」

「少し黙って!」

 あなたはボイの言葉に支持を出しました。

「声を出さなくてもあなたの声は心で聞こえるよ」

「そうか」

「本当だよ。僕はスライム。でも僕、自分じゃ弱くてご飯が得られないんだ。今刺さってるこれは食べていいやつ?」

「違う。それは困る」

「そっか、僕はただお腹が空いてるだけなのに」

「金属が食べたいのか」

「そうだよ」

 スライムもあなたも立ち止まったまま森の中で静かに時は進んでいました。

「なあ、まだか?」

「ああ、それより、この辺で金属って手に入らないか?」

「そんなの村に行けば買えるだろ」

「よし、行こう」

 あなたは斧を地面から抜いて背負いました。

「このスライムはどうすんだよ」

「コイツは大丈夫だついてくる。行くぞ」

「ついてくるって、あ、おい!」

 あなたは金属を手にするために村へ走り出しました。


 村に着きました。がドゥーニャは怒った様子でした。

「スライムは中に入れないのであってよ」

「そうですよ。今襲ってこなくても危険がないとは証明できませんから」

「なら、買ってくるからここで待ってて」

 あなたは仲間達を置いて村の中に入りました。

「どこに売ってるか知らないだろうに、ドゥーニャ任せた」

「しょうがないのであって」

 ドゥーニャが後ろからかけてきました。

「待っててって」

「どこに売ってるのか分かっているのであって?」

「それは」

 あなたはスリブシの村については詳しくありませんでした。

「知らない」

「そうであって、案内するからついてくるのであって」

 あなたはドゥーニャに導かれて安物の武器を手にし村の入口へ向かいました。


「お待たせ」

「やっぱりドゥーニャが居てよかったな」

「そうであって?」

「うん」

「もちろんですよ」

 ドゥーニャは目を泳がせるようにしました。

 あなたはそれを無視してスライムに斧を振り下ろしました。

「やっぱり」

「これじゃない」

 あなたは買ってきた安物の剣をスライムに刺しました。

 それに応じてスライムから斧を抜きました。

 スライムはほんの数秒で剣を溶かしました。体を大きく前後左右に動かしています。

 少し待っていると体から冠が出てきました。

「あっ、そいつは!」

 スライムの体から出てきた冠は探していた王冠と瓜二つでした。

 すかさず斧をスライムに叩き込みました。

「これは?」

「拾ったんだ。美味しそうだったから。剣美味しかったよ。でも、これは食べられなかった。だから、お礼」

「……これを王様に届けていれば……」

「何?」

「いや、何でもない。これは探してたものなんだ。ありがとう」

「本当? よかった。またご飯ちょうだいね」

「もちろんさ」


 それからあなた達は白へ戻り王様に王冠を渡しました。

 本物であることが判明するのに数日を要しましたが、それでも分かってからはすぐに報酬として財宝を貰い受けました。

 その金で今では新しい仲間達と暮らしていました。


END 王冠




































最初へ。

「気まぐれな王家の頼みのお使い」へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894917063/episodes/1177354054895315636

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る