肯定
「そうですね。そう思います」
あなたは老人に向けて言いました。
「嘘つくわけにはいかないが、その言い方はないんじゃないか?」
ボイが言いました。
老人は黙ったままでした。
変わらず鍋をかき混ぜていました。
くるくるくるくるとドロドロとした何かをただひたすらにかき回していました。
「お主らは、尊敬の念というものを持ち合わせていないのか」
老人は肩を震わせながら言いました。
「いや、そういう訳じゃなくて」
「なら、どういう訳じゃ」
「それは、あれだむしろ現実を否定することが失礼に当たる。あんたが言うところの尊敬の念を欠いていることだと思ってだな」
「では言動の内容は良しとしよう。しかし、その話し方はどうじゃ、それが年長者に対する口の効き方か」
「う。お、俺は確かにその事をいつも怒られてきた。いや、きました。もういい年なんだから口の効き方には気をつけるのであって。とよく言われてきました」
「なら、何故できぬ。人に言われて何故直さぬ」
「そいつは」
「分かっておる。わしの見た目の問題じゃろう。わしがこうして顔を隠していることそれが気に食わんのじゃろう。どうせしわくちゃだと思っておるのじゃろう。それが恐ろしくてたまらないのじゃろう」
「俺は別にそんな事は」
「お前だけの話じゃない。いつも周りは見た目の話ばかりじゃ、見た目がそんなに大事か。それはそうじゃ大事じゃろうな。じゃが、全てを単一基準で判断することが気に食わん」
「話を聞いてくれって」
「今になってもその物言い。お主はどうしようとも変わらんようじゃな」
「それは済まなかったとお、思ってますから。おまえも黙ってないでなんとか」
「もう遅いわ。準備は整った。お主らにはちと悪いと思っておったがお主らこそ丁度いいようじゃ。まだ眠うておる子には申し訳ないが連帯責任というやつじゃ、仲間を見る目がなかったことを後悔するんじゃな。と言っても聞こえんじゃろうが」
「おい、俺が迷惑をかけたんです。なにかするなら俺だけで十分なはずです。仲間に手を出すのはおかしいです」
「今さら口調を直そうと遅いわ!」
老人が叫ぶと家具調度はガタガタと音を立てて宙を舞い始めました。椅子も机も窯も目に映る物どれもが空中を踊るように移動し周囲をグルグルと回っています。
「ほれほれ、始まりじゃ」
今まで漂っていなかった香りが空間内に立ち込め始めました。
匂いの発生源は、
「これはあの窯からか」
「どうした、どうした」
老人は両腕を上げて口をパクパクさせています。
速さの違う物がガコガコとぶつかり合う音が鳴り響きます。
「何があって!」
「どうしたんですか!」
音で気づいたのかドゥーニャとマナが部屋から出てきました。
「今じゃ」
一瞬ですべての物体が動きを止めました。
「くらえ!」
ボイは窯に拳をぶつけました。
「オホホ。こりゃいい。自分から進んで浴びるのか」
老人は言いました。
ホホホ、ホホホと笑っています。
窯は拳がぶつけられた場所からヒビが入りピキピキと音を鳴らして少しずつ全体へと亀裂を広げていきます。
「もう少しじゃ」
ピキピキと音を鳴らし限界がきたのか鍋は壊れ中から全てが流れ出てきました。
「ボ」
ドッという音に全てがかき消されました。
一瞬だけ老人のフードが上がったように見えましたがそこにあった顔を見ることはかないませんでした。
部屋は鍋の中身で満たされました。
どれだけ出てこようとも収まる気配はなく流れ続けました。
部屋を満たし切るとそこでようやく水位の上昇は止まりました。
「ガバア」
今まで我慢していたものが限界に鳴り鍋の中身が体の中に入り込んできました。
あと4つ音が鳴った気がしてから水位が下がり始めました。
徐々に地面に近づいても全てがなくなることはなく浅い川で横になっているような状態になりました。
「バハア。これでお主らもわしと同じようになる運命ぞ」
「ゲホッ。おい、それってどういう」
ボイが言いました。
不自然な言葉の切り方をしました。
突然視界が大きく揺れました。
体の中で何かが動き回るような感覚に襲われました。
「グア、アア、アア」
周りでも仲間達が地面を転がっていました。
「どうやら始まったようじゃの、変化が」
「アアアアア」
END 変化
最初へ。
「気まぐれな王家の頼みのお使い」へ
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894917063/episodes/1177354054895315636
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます