それは、ただの独り言だった。
夕暮れの川辺、恋に破れた少女・ももが、何の気なしに空へ投げた一言――「運命の人、教えてよ」。
けれど、月は静かに答えてしまった。
現れたのは、月光の化身とでも呼ぶべき美しい男。
銀の刺繍が揺れる装束。人ではないとわかる瞳。
そして、彼はすべてを知っていた。名前も、失恋の理由も。
挙げ句、「お前は千年前の姫の生まれ変わりだ」とまで言う。
現実と幻想の境界が、音もなくほどけていく。
それは夢か、それとも遠い記憶か。
やがてももは、彼に手を引かれ、月光に照らされた異界の参道を歩き出す。
見たこともない神域の森。人知れぬ祠と池。眠る神、封じられた穢れ。
すべては彼女の魂が辿るべき、過去からの呼び声だった。
これは、傷ついた少女が出会った、『忘れていた約束』の物語。