少年は魔法を知る

そのままギルドを出た僕とフウカは、大通りの道沿いにあった服屋へと足を運ぶ。


フウカはとても楽しそうで、僕に


「好きな服はあるかしら?」


「どういう服がいいですか?」


などと聞いてくるが、まずどんな服があるか分からないし、返答には困る。


「まぁ、あのお店のコーディネートはとても素晴らしいですから、安心してくださいね」


それからも道なりにあったお店の説明やらをしてくれたお陰で、お店までは退屈せずに着いた。


「ここがこの街で1番人気の服屋、『リンジェ衣類店』よ。私もよく来るの」


と、フウカが立ち止まった店は道沿い側の壁がガラス張りで店内の様子が見渡せるようになっている。一階建てのようで、ドアは木製で小窓が埋め込まれており、オシャレにできている。


フウカの言った通り、店の上に掲げられている看板には大きく『リンジェ衣類点』と書いてある。


フウカはそのまま店の扉を開く。ギルドと同じようにドアにベルが付いていて、チリンチリンと音がなる。


それを合図にか、奥から人が出てくる。とてもお淑やかな感じで、フウカやライラよりは生まれてから時間が経ってそうな感じだ。柔和に笑みを浮かべてこちらを見て、


「いらっしゃい」


と一言。フウカはそれに


「急用があって来たの、リンジェさん。唐突で悪いんだけど子供用の服ってあるかしら?」


と問うと、リンジェと呼ばれた人は店内の左奥の方へ、踵を返して歩き出しながら、


「勿論あるわ。こっちよ」


と言って案内してくれた。


案内された先には、他ほどスペースは大きくないがしっかりと子供向けのサイズの服が置いてあった。男の子用と女の子用で分かれているようだ。


フウカがリンジェに問いかける。


「この子、アスカって言うんだけど、この子に似合いそうな服、3セットぐらい選んでくれない?」


リンジェは元々そう言われるのが分かってたのか、僕の方を見ることもなく迷いなく服を選んでいく。


「それならこれね。サイズもあってると思うわ」


と、慣れた手つきで服を選び終わり、次にシャツや靴下、靴などもパパっと決めてしまうと、そのままカウンターのところへ移動して


「金貨51枚よ」


と僕らの確認を取ることもなく、お会計を始めてしまった。


しかしフウカは疑問を呈することなく袋から言われただけの金貨を取り出したようで、それをリンジェに渡す。


リンジェも少し確認したらカウンターの下の袋に渡された金貨を入れて、選んだ服を袋に詰めてフウカに渡してから


「ありがとう。また来てね。服を着て行くなら奥の試着室を使っていいわよ」


と言った。


え……? なんかあっさりしすぎじゃない? ていうかよく通貨感覚は分からないけど金貨って高いんじゃないの……? と思っているとフウカが、


「ここはコーディネートをリンジェに任せることができるのよ。勿論自分で選ぶ人もいるけど、リンジェのセンスがとても良くってね。こっちの方が早いし、いい服を選んでくれるから安心して任せられるの。お金に関しては気にしなくていいわよ。私たち、結構稼いでるから」


え、そんなんでいいの……?


「まぁとりあえず、もう買っちゃったんだから着替えましょう」


とフウカに急かされて、うやむやにされ、試着室の方へ向かう。


「着替えは自分で出来る?」


とフウカに聞かれたのでコクリ、と頷いておく。多分大丈夫。着るのが難しそうな服もなかったし、服はそれぞれセットになっているから考えなくてよさそう。


そのまま試着室に入って渡された一着を難なく着替える。かなり動きやすい服装で、靴も履きやすい、ちょうどいいサイズだ。あの店に入った時に見た一瞬だけでここまで完璧にサイズをあてられるのはすごいと思った。


試着室を出てフウカにも服装を見せる。


フウカはこっちを見た瞬間顔をぱぁっと明るくして、満面の笑みで


「うんっ。ちゃんと似合ってるわね! よかったわ」


と言ってくれた。お礼は言った方がいいと思う。


「……ありがとう」


その言葉にフウカは満足そうに言ってくれた。


「……どうしいたしまして」


そしてそのまま言葉を続ける。


「靴、履いたからもう自分で歩けるかしらね? それともまだ抱っこして移動したほうがいい?」


とからかわれる。ブンブンッと首を振って自分で歩けるアピールをする。さすがにこれ以上迷惑はかけたくないので……。


「じゃあ、次の場所に行こうかしら。ついてきてね」


と言ってフウカは店を出る。僕もそれについていくけど、次の場所ってどこだろう……?


フウカは僕が遅れない程度の速度を保ちながら、最初と同じように、通りにある店の説明をしていく。


けど、次の場所については教えてくれない。口元がちょっとにやついているようにも見えるのは気のせいだろうか。


10分ほど歩いたところで、フウカが立ち止まった。目の前には闘技場? コロシアム? 大きい建物がある。石造りで細部まで作りが凝っており、かなり古い建物のようにも思う。


フウカがその建物を見ながらしゃべりだした。


「ここはヴァルキアラ闘技場と言ってね。国が運営してるんだけど、大会がある時とか以外は訓練に使っていいように、一般開放されているんです。なんでも5000年以上前の古代魔法が使われてて、かなり頑丈にできているとか。とても大きいでしょう? 驚きましたか?」


へー……。5000年前って相当前だなぁ。想像もつかないぐらい。どんな時代だったんだろう。


というかこんな場所で何を? と思っているとすぐに答えがフウカの口から出た。


「さっき魔法に興味があるみたいな話をしたでしょう? 実際に見せるにも解説するにも一般人がいるところよりはここの方が色々といいかと思ったの」


そっか! 魔法! そう思うととてもわくわくしてきた。


「じゃあ入るわよ。ついてきてね」


とフウカが歩き始めたので、それに続いて闘技場に入る。ドキドキするなぁ。


闘技場は、周りが360度観客席になっていてフィールドが中心に広くあるような作りだ。最初からフィールドに行くのかと思ったけど、そうではないみたいでフウカは観客席の方へ向かった。


たくさんあるうちのイスの一つに腰かけて、僕にも座るように促してくる。


「まずは魔法がどんなものなのかを説明しておかないと、使うこともできないから、ちょっと苦痛かもしれないけど、魔法を使えるようになりたいなら、真面目に聞いてね」


とフウカが語り掛けてくる。なるほど、原理も知らずにできるわけはないはずだ。よし、ちゃんと聞こう。


「まず、魔法の前に、一番大事なのが『魔力』よ。魔力は生きている者なら全員持っているし、あなたもちゃんと持っているから、安心していいわ。その魔力を使って魔法は発動するわ」


そういいながらフウカは手を、空気をすくうような形で僕の前に持ってくる。


よく見てみると、ほんのりと紫色に光っている。


「これが純粋な魔力よ。これを、イメージを投影して、実際に炎にしたり、水にしたりするのを魔法というのよ」


そういいながら、フウカは手の形をそのままにしているのに、手の上で炎ができたり、水ができたりする。


「これは、イメージで作ってるから、実際の炎とかと違って、熱くないようにしたりすることができるわ。でもまぁ、自分のイメージを投影するのをやめてもその炎がまだ紙とかに延焼して燃えているなら、それは普通の炎の性質になるのだけれどね」


「で、さっきから言っているイメージの投影っていうのなんだけど、これは正直感覚に近いわ……。頭でどういうものなのかをイメージして、そこに魔力を通す感覚よ。とりあえず、この続きはフィールドに出てからしましょうか」


と、フウカが立ち上がって移動を開始する。ので、慌てて僕も付いていく。


石造りの階段を降り、少し薄暗い通路を抜けてフィールドに出る。


と、フウカが早速口を開いた。


「ここの壁は結界が張ってあって、滅多なことでは傷はつかないから、魔法を放ってみてもいいのよ」


そういいながら、人のいないところめがけて手を向けて魔法――炎の塊を放つ。


それは壁にぶつかると轟音と共に爆発した。


え、巻き込まれてる人いないよね? と思ったけど、さすがに調整してるのか、誰にも迷惑はかけてないみたい。ほかの人も、日常茶飯事なのか、全く気にせず、各々の特訓をしている。


「これは考えるよりやってみた方がいいと思うわ。なにかをイメージして魔力を通すようにしてみて。できると思うわ」


とフウカに言われたので、やってみる。うーん、イメージかぁ……一番最初に見た炎かな? 見たまんまをイメージして魔力を通す……。こんな感じかな?


と、手の上に炎をイメージしてみる。


すると、考えた通りの炎が手の上に出てきた。フウカは静かに横で見ていたが、炎を見た途端とても驚いた表情になった。なにかおかしかったかな……?


と思ってフウカを見ていると、


「あ……あ、ごめんね。最初からこんなに上手にできると思ってなかったからとても驚いたわ。すごいわよ。魔法使いになる才能があるかもしれないわね」


と、少しのフリーズののちに言ってくれた。すごいことだったのかな?


なんにせよ魔法が使えてうれしかった。


「とりあえず、魔法も教えられたことだし、一旦ギルドに戻りましょう? 2人がどういう話をしてるのかも気になるし、せっかく買った服も見せてあげたいわ」


と、フウカが少し焦ったように言うのでコクリと頷く。確かに目的は達成したしね。ライラにもお礼を言いたいから。


ということでギルドに戻ることになりました。

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