兄妹デートはハプニングがいっぱい③

 休日とは思えないほどの混みようを見せた電車に揺られ、最寄駅から歩くこと七分、やってきました外合百貨店。

 入口にある『閉店さよならセール』という看板を見て、なんともいえない哀愁めいた気分になる。つまり今日のデートは哀愁でいと……おっと誰か来たようだ。多分あの人だろう、キミに決定。


「本当に……今月末で閉店しちゃうんですね……寂しくなります」


 小百合が看板を見上げながらぼそっとそうつぶやいたのを、兄イヤーは聞き逃さない。


「うん、改めてこういう看板を見てみると、感傷めいた気持ちになるね」


「あ、でも、年中さよなら閉店セールを開催しているお店もあるので、ひょっとすると来月でも営業している可能性も」


「それはまた種類の違う営業形態だから一緒にしちゃダメ」


 もとは回転扉だった、今はただの自動ドアをくぐると、ここでも時代の流れを感じたりして。


 …………


 あ、肝心なことを聞くの忘れてた。


「小百合、何か欲しいものない?」


「ふぇ?」


「いや、せっかくここに来たんだからさ、何か買ってあげたいなって。記念に、ね」


「え、ええ……? べ、べつにわたしは」


「おっと、『買わなくてもいい』はダーメ。ちゃんとほしいものを教えて?」


「あ、あの、お兄ちゃんが買ってくれるならなんでも……すぐには、思いつかなくて……」


 なんとなく遠慮する癖が抜けない小百合だから、どういってくるとかもだいたい予想できる。だが、これで終わってしまったら兄としての甘やかしが中途半端で終わってしまうのだ。


「そっか。じゃあ、俺の提案だけど。小百合に靴を買ってあげたいかな、って。どうだい?」


「!!」


 小百合に関して、いちおう服などは紗英プロデュースでそれなりにワードローブがにぎやかになったが、靴に関してはまだ駒不足である。同じ靴ばかり履かせるわけにもいかないしね。


「……その顔を見る限り、それでよさそうだね。じゃ、さっそく靴を見に行こうか」


 決して紗英の選んだものだけを身に着けることが許せないわけじゃない、と思う。軽く嫉妬してたのは間違いないが。


「は、はい! ありがとうございます! お兄ちゃんに買っていただいた靴は、家宝にして飾っておきます!」


「いやせっかく買った靴なら履いてよ……えーと、靴売り場は……」


 また変な遠慮を見せる小百合を軽くなだめて、靴売り場が何階にあるのか案内板で確認していたら。


「……ムツキ? ムツキよね?」


 小百合とのデート真っ最中には聞きたくなかった人物の声が、俺の名前を呼んできた。不意打ちすぎるだろ。


「サ、サーシャ……なんでここに」


 おそるおそる振り返ると、なぜか満面の笑みを浮かべたサーシャが、トートバッグを抱えたまま真後ろに立っていた。まだ黒髪のままだよこいつ。


プリヴィットこんにちは。グーゼンですね、いやーイモウトちゃんも一緒ですねー、いやいやグーゼンですねー、いやいやいや仲ムツマジイことで、ムツキだけに」


「はぁぁぁ……この前お店に来たガイジンさんだぁ……でも、黒い髪……?」


 黒白ボーダーのカットソーにジーンズというラフないでたちでも、やたらと目につくルックスのサーシャである。

 小百合は憧れにも似た目で見ているのだが、騙されちゃいけない。絶対こいつ暇してただろ、おもちゃを発見したかのような笑顔をしやがって。


「そうだな、偶然だ。じゃ、ドポバチェンニャさいなら


「ニガサヌ」


「ぐえっ!?」


 さっさと方向転換して逃げようとしたら、サーシャに襟足の髪の毛をつかまれてクビがゴキッという音を立てた。


「痛ってえなサーシャ! 首の骨が折れたぞ訴訟。あと髪の毛つかむな、ハゲたらどーしてくれる!?」


「ハゲは男性ホルモンが豊富な証拠。男らしさを否定しちゃダメ」


「サーシャの祖国ならともかく、ここ日本でその価値観は通用せんぞ」


「ワタシの祖国は邪馬台国だと何度言えば。それにヒイヅルクニは後光が差す髪型を否定してない」


「だからそのまちがった価値観のスムージーはやめれ!」


 ある意味、サーシャも意思疎通が意味をなさないという点で、米子並みの災害なことは間違いない。疲れる。


「……お兄ちゃん、ガイジンさんと仲、いいんですね?」


「小百合、頼むから俺の表情を見て判断してくれ、頼む」


「そう、ワタシとムツキはマブダチ。だからそのイモウトも当然マブダチ」


「え、ええ!?」


「トクベツ、ムツキのイモウトなら『カミサマホトケサマサーシャサマ』と呼ぶのを許そう」


 しれっとマブダチ認定された小百合が嬉しそうにしているのがなんとも癪である。説得開始。


「小百合、嘘から出た屁理屈に騙されるな。あとサーシャは邪魔するな。これから俺たちは小百合の靴を選びに行くんだ、乱入者にかまってる暇はない」


 そう言ってその場から強引に立ち去ろうとしたが。


「オー、ムツキのセンスでイモウトの靴選び? やめといたほうがいい」


「……」


「その点、センスバツグンなワタシ、ゼッタイオサレな靴選びの役に立つ」


「……」


 やべえ、サーシャに言い返せねえ。

 クッソ、俺の心の奥にある一抹の不安を増幅しやがってこのなんちゃってガイジンが!!


「あ、あの……」


「ダイジョーブ、靴選び終わったら姿消す」


「……」


 小百合頼む、サーシャに説得されるな。考え込んだ時点で負けだぞ。


「だから、イモウトが履くカワイイ赤い靴、とっとと選んであげまーす!」


「それ異人さんに連れられて行っちゃうフラグじゃないのか」

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妹できたよー、腹違いだよー! 冷涼富貴 @reiryoufuuki

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