第47話

「何言ってるの……?」




レンアイ放送がすべて私のせいだなんて、信じたくなかったし、信じなければいけない理由もなかった。



私は何もしていない。



私はレンアイ放送に微塵も関与していないというのに。




「私は何も関係ないじゃん、

どういうこと……?」



「そういうところ……

そういうところが嫌いだったの……」




美咲はそう言って、

唇をわなわなと震えさせた。



本当に恨みのこもった顔で、

私を強く睨みつける。




「親友だったのに、一番そばにいたはずなのに、瑞季は何も気づいてくれなかった……幹夫が死んで苦しんでるのに、瑞季は榊原のことしか見ていなかった!!」




美咲がヒステリックに叫び散らす。




「叶わない恋ばっかり楽しんで、私のことなんてどうでもよかったんでしょ……?私より、榊原ばっかり見てたじゃない。」




美咲の目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。



図星を指されたような私は、

反論できずに立ちすくむしかなかった。




「……そんな、そんなわけ、」



「そうでしょ?ずっと気付いてほしかったのに、瑞季はいつも榊原ばっかり。私のことなんて全然考えてなかった!」




歩み寄る私を拒むように、

美咲は前のめりになって叫んだ。




「……ねえ、幹夫がいつ死んだか分かる?私がろくに食事も出来なくて、毎日毎日苦しんでたの、いつだか分かる?ねえ、分からないでしょ?」



「それは……」



「分からないじゃん!!親友なのに!大好きだったのに!」




放送室に美咲の叫び声が響き渡った。



私はその悲痛な叫びを前に、

呆然と涙を流すことしか出来なかった。




「ごめん……本当に、気付けなくて、ごめん……」




どうして気付かなかったのだろう。



毎日隣にいたはずなのに。



毎日顔を合わせていたはずなのに。



親友が食事も喉を通らないほど苦しくてつらい思いをしている横で、私は榊原のことばかり見ていた。



私が一番に気付いてあげなきゃいけなかったのに。



美咲はずっと気付いてほしくて、

私を待っていたのに。



私は、そんな親友の想いを

踏みにじったのだ。




「ずっと待ってたんだよ、

気付いてくれるのを……」




美咲は小さな声でそう呟いた。




「レンアイ放送が始まった時、

瑞季の背中を押したでしょ?

レンアイ履歴のサイト、

私のページだけ開けなかったでしょ?

レンアイ放送の最中、

どこを探しても私がいなかったでしょ?


気付くタイミングなんて、

いくらでもあったんだよ。」




美咲はぎゅっと拳を握り締めた。




「本当なら実行する前に止めてほしかった。でも気付いてくれなかったから、せめて、この放送の序盤で止めてほしかった。だからこんなにもヒントを散りばめた。


なのに……どれも叶わず沢山の生徒が死んで、私はここまでするつもりなかったのに……!全部、瑞季のせいなんだよ!!」




美咲はそこら中にあるものをなぎ倒して暴れまわる。




「瑞季のせい、瑞季のせい……

瑞季のせいだ……!!」




泣き叫ぶ美咲なんて、

今まで見たことがなかった。



そればかりか、

美咲の泣き顔さえ見たことがない。



ずっと自分の気持ちを押し殺して

私に本音を見せず生きてきたんだ。



私が、気付かないばかりに……



本当に、情けなくて仕方がなかった。




今流している涙は、

どんな感情なのだろう。



初めて私に見せた本音なのに、

何も分かってあげられない。



私も、自分で流している涙の意味が分からなかった。



私が泣いていいはずない。



私に泣く資格なんてない。



そう分かっていても、

流れる涙は止められなかった。


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