第46話
「理事長が、殺したって……?」
理事長の発言に、
重苦しい空気が流れる。
美咲は鋭く理事長を睨みつけたまま、
もう一度
「早く言えよ。」
と鋭く言った。
「
理事長は、事の次第を
ぽつりぽつりと話し始めた。
椅子に縛られた両手両足は、
力なくだらりと垂れたままだった。
「その時、ちょうど幹夫くんは難病にかかって入院していた。だが、多額の負債を抱えた岩立さんは治療費を払うことができなかったんだ。だから……」
「まさか、」
「そのまさかだよ……岩立さんは幹夫くんの点滴に消毒液を混入させて、幹夫くんを殺したんだ。」
「そんな……」
「岩立さんの会社への援助を断った私が悪い。美咲はそう言って、ずっと私を責め続けているんだ……」
理事長はグッと歯を食いしばったままそう言った。
助けたくても助けることが出来ない。
その気持ちはこのレンアイ放送で幾度となく経験した。
大きな会社の社長という立場は、
いくつもの家族の運命を背負っている。
そう簡単に援助できるわけではないと、
私にもなんとなく分かった。
だから、私には理事長を責めることなんて出来なかった。
そう思って口を開く。
「美咲、理事長は何も悪くないんじゃ。」
「似てるでしょ、レンアイ放送と。」
「……え?」
美咲は床に座り込んだ私を見下ろしてそう言った。
「似てるって、何が……」
「自分が生きるためなら、誰を殺したって構わないと思っているところ。レンアイ放送のアイデアはそこから生まれたんだよ。」
美咲はまた笑っていた。
でも、さっきとは違う、
悲しそうな顔だった。
「幹夫が死んだとき、食事も喉を通らないほど辛かった。なんで幹夫が実の父に殺されなきゃならなかったのって。
……でも、その本当の原因がアイツだって知って、絶対に死ぬより苦しい目に遭わせてやるって誓ったの!これは、アイツへの復讐なんだよ!」
息を切らして一息に言う美咲を見て、
胸が締め付けられるように苦しかった。
やってはいけないことをしたのに、
当時の美咲の気持ちを考えると
その言い分も分かるような気がしたのだ。
人は苦しみに陥った時、
恨む対象がいなければ生きていけない。
美咲にとって、それが理事長だったのだ。
「アイツが何よりも大事にしてるのは富と名誉……だからアイツの財産である学校で大量虐殺を起こせば、アイツの心をぶち壊せるって。そう思ったの。」
「そんな理由で私たちを巻き込んだの……?」
「そんな理由……?
くだらないとでも言いたいの!?」
「そういう訳じゃないけど……でも、関係ない人まで巻き込む必要はなかったじゃない!」
「瑞季……あんた本当になんにも分かってない!!」
立ち上がって美咲を責める私を、
美咲はまた強く突き飛ばした。
さっきまでの悲しそうな目とは全然違う、
怒りに満ちた目をしていた。
「私がこんなに苦しい思いをしてるのに、恋に溺れて楽しそうにしている奴らがいるのが許せなかった……みんな死んじゃえばいいのにって思った……
それに……こうなったのは全部瑞季のせいなんだよ?」
「……え?」
思いがけない言葉に唖然とする。
レンアイ放送が起こったのは、
全て私のせい……?
とんだ言いがかりをつけられた気分だった。
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