第36話 加藤と僕①

 どこを探しても加藤は見つからなかった。


 始めは僕たちの教室、次は隣のクラス、そして図書館。


 外にはいなかったはずだからすべての教室をしらみつぶしに探していくしかないかと思う。


 階段を上って、誤って上りすぎてしまった。

 そこで、もしかして、と思う。

 加藤は屋上にいるかもしれない。


 立ち入り禁止の文字を無視し、ドアノブを回す。

 それは、抵抗を感じさせることなく、すんなりと動いた。


 そのに広がる景色に、加藤はいた。


「加藤」

 加藤はゆっくりと首を回して僕を認識する。

「緑川」


 僕は加藤の隣まで進んでいく。

 座ったままの加藤の襟元をつかんで立ち上がらせる。

「葉菜に何をする気だ」


 加藤は僕の手を振り払って面倒くさそうに息を吐く。


「何もしない」


 その返答が僕をさらにイラつかせる。


「だったらなぜ葉菜がいるのは南中だって知っている」


 加藤は一瞬僕をにらみ、すぐにそらしてどこか遠くを見つめた。


「その質問、お前にそっくりそのまま返すよ」

「答える気はないんだな」

「お前も同じじゃないか」


 今、僕たちの間に流れている空気を、僕は知っていた。


 それは、そう遠くない昔の話。

 僕たちの間にわだかまりがなかったころ。


 その時はすべてを言い合うこともなかったけれど、とても居心地がよくて。


 今と状況は全然違くとも、お互いにまとっている空気が昔のそれに戻りつつあるような気がした。



 今なら、と思う。

 今ならあの日言えなかったことを言えるかもしれない。


「なあ、加藤。僕はずっと後悔していたんだ」


 あの日。君を守ってあげられなくて、ごめん。


 僕は記憶の遠くにある笑顔を思い出した。

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