第12話 黒歴史が鍵になる?


 俺はただ、普通の高校生活を送りたかっただけだ。それなのに——


「さて、これが凛の中学時代に生み出した""なわけだけど…」


 そう言いながら、幼なじみの結衣が俺の目の前にノートを突きつける。表紙には堂々と**『魔導創世録 -The Beginning of the True World-』**と書かれていた。


 俺の黒歴史ノートだ。


「おい、それを俺の前で広げるな!」


「昔、得意げに私に見せてきたでしょ? それで、ちょっと読んでみたんだけど——」


「読んだのかよおおおおお!!!」


「凛が勧めてきたんじゃない…なかなか興味深い内容だったわ」


結衣は笑いを堪えている 


「これはとても有益な資料です。あなたが考えた魔法理論は、一見無茶苦茶ですが、応用すれば本当に使える可能性があるかもしれません」


クールな表情を崩さずにそう言ったのは、レナ。


「あるわけねぇだろ! あれは俺が中二病の勢いで書いた妄想ノートだぞ!」


「だからこそ、真実の中に潜む""があるのよ」


「勝手にカッコいいこと言うなぁ!」


 俺は頭を抱えた。なぜ俺の過去がこんな形で掘り返され、しかも学園トーナメントのための戦略資料にされようとしているんだ?


「よし、じゃあ早速、使えそうな魔法をピックアップしていこうか」


「待て待て待て! 勝手に進めるな!」


 俺の抗議を無視して、2人はノートを開き、真剣な表情でページをめくる。


「『灼熱の弓矢』……文字通り、灼熱の矢を放つ技ね」


「説明文には『神すら貫く超高温の一撃。触れた瞬間に因果ごと焼き尽くす』とありますね」


「いや、そんなもの実際に撃てるわけが——」


「でも、鳳くんの魔力なら可能性があるんじゃないですか?」


「……やめてくれ、本当にやめてくれ」


 結衣とレナがまるで戦略会議でもしているかのように議論を進める。俺の心情などお構いなしだ。


「こっちはどうかしら? 『緋色の刀』」


「止めることができない斬撃、ね……。確かに強力そう」


「何をマジメに分析してるんだお前ら!?」


 頭を抱える俺を尻目に、2人はさらにページをめくる。


「他にも『暗黒の翼』、『雷鳴の双剣』、『時を刻む剣』……面白いわね」


「どうせなら、いくつか試してみようか」


「やめろおおおおお!!!」



 気づけば、議論(という名の黒歴史公開処刑)は数時間にわたっていた。


「……はぁ、もう夜じゃねぇか」


「うわ、ホントだ。お腹すいたなぁ」


「……仕方ない、飯作るわ」


「えっ、料理できるの?」


「お前ら、俺をなんだと思ってんだ」


 俺は冷蔵庫を開け、あり合わせの材料で手際よく調理を始める。


 包丁さばきも鮮やかに、野菜をカットし、フライパンで肉を焼き、スープを作る。


「……えっ、ガチでうまそうなんだけど」


「プロの料理人みたいですね」


「まぁな」


「どこでそんなスキルを……?」


 結衣が不思議そうに尋ねる。


「実は昔、あるライトノベルの主人公に憧れてたんだよ」


「どんな?」


「『彼女は家事ができないっ!』って作品だ。家事が全くできないヒロインを、主人公が料理や掃除で助ける話でな」


「なるほど、それでこんなに料理ができるんですね」


 レナが微笑む。なんだろう、この感覚。普通の会話なのに、ちょっと照れくさい。


「いただきます」


 3人で食卓を囲み、静かに夕食が始まる。


「……美味しい」


 レナが感動したように呟く。


「うん、これマジでお店レベルだよ」


 結衣も満足そうに食べている。


「ま、まぁな」


 なんだろう、めちゃくちゃ嬉しい。


 普段は魔法とかトーナメントとかでバタバタしてるけど、こういう日常も悪くない


「さて、今日はこのへんで解散しようか」


 結衣が立ち上がる。


「うん、ありがとう。美味しい食事、ごちそうさまでした」


 レナも微笑みながら礼を言う。


「じゃあ、また明日な」


 2人を見送りながら、俺はふとノートを手に取る。


 ——普通の高校生活を送りたかった。


 ——でも、今の俺には無理なのかもしれない。


 それでも、諦めたくはない。


「……トーナメント、勝つか」


 俺はそっと、黒歴史ノートを開いた——。


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