第75話 飛空艇が来た!
減ったHPを自然回復させつつ、戦力の分析をする。
「やっぱり100人くらいでかかってこられると、押し負けるね」
「そうですね……」
ルナさん1人に対し、うちの領民100人で概ね釣り合いが取れるようだ。
「つまりは、外の警備に100人ほど割いておけば、ルナさんがログインしている時と同じくらいの防衛力になると」
「そうなるね」
これは吉報と言えよう。
俺もルナさんも、ずっとこっちの世界にいるわけにはいかないし。
「これで、少しは安心してログアウト出来るね」
「ええ……」
逆にいえば、領のみんなで対処出来ないような敵なら、ルナさんがいてもどうにもならないということ。
よって俺は、その可能性について検討することに。
「今のAROで最強の同盟って、竜人同盟を除くとどこになるんですかね? やっぱりテオドアさんとこのBS同盟ですか?」
「いいや、あそこは確かにデカい同盟だが、多分10番手くらいだろう。竜人同盟の次に強大なのは、恐らくは『竜の剣』だ」
「竜の剣?」
名称からして、同盟とは違うものなのかな?
「竜人同盟の共同出資で運営されてる、武装NPCの集団だ。グランハレスに拠点があって、1000機を超える飛空艇を所持していて、常に10万を超えるNPCが雇われている」
「へえー」
軍事会社みたいなもんか。
そして蒼穹世界だけあって、飛空艇なる素敵オブジェクトも存在する。
「竜の剣の目的は、竜人同盟を脅かすような巨大同盟が出来るのを牽制することだ。相当な積立金を抱えているらしくて、有事の際の最大徴兵能力は100万とも200万とも言われているな」
「ほおお……」
グランハレスで暮らすNPCの1割近くを徴兵するだけの資金力があるようだ。
規模がでかすぎて上手くイメージできん。
竜人同盟は専守防衛だけど、ちゃんと『矛』となる手段も用意しているんだな。
その後も、ルナさんとあれこれ話をする。
現在のアルサーディアの勢力図を国家数に換算して比較と、概ね以下のようになるようだ。
竜人同盟 3万国
冒険者同盟 2万国
竜の剣 1万国相当
シリウス同盟 5000国
陽炎軍団 5000国
RCクラブ 3000国
NW同盟 3000国
浮島通商連合 2500国
風の騎士団 2500国
BS同盟 2000国
金獅子連合 1800国
大鷲空挺団 1200国相当
(参考)
アクティブ数 5万人
稼働中のアカウント 15万人
国持ちプレイヤー 8万人
国無しプレイヤー 7万人
シリウス同盟と陽炎軍団は、純粋に大規模戦争を楽しみたいプレイヤーの集団のようだから、俺にとっては脅威ではない。互いの戦力が拮抗するように、新規加盟数の調整まで行われているという。
RCクラブのRCは、リアル・クラフトの略で、その名の通りリアル・クラフトを楽しむ生産者集団だ。こちらも脅威ではない。
NW同盟のNWはナイト・ウィザードの略であり、戦闘志向は低く、仕事などの理由で昼間にログインするプレイヤーが多いようだ。ジャスコール王国から見て本拠地が遠いので、わざわざ侵略してくることはないだろう。
浮島通商連合と風の騎士団も戦闘志向は低め。侵略してくる可能性が全くないとは言えないが、さしあっての脅威とはいえないだろう。
勢力拡大を目指しているのは下の3つの同盟で、特に大鷲空挺団は、飛空艇を活用した戦略で、次々と新興国を侵略し、目覚ましい速度で勢力を伸ばしているという。
「新規で始めた領主が一番気をつけなきゃいけないのは、やっぱり大鷲空挺団だ」
やはり、そういう結論になるのだろう。
どこの同盟にも属さずに浮島国家を運営することは、今や絶望的に難しい。
BS同盟、金獅子連合、大鷲空挺団の3つが、ハイエナの如くそれを狙っているからだ。
しかしながら、何処かの同盟の所属になればそれで安全というものでもない。
同盟の本拠地からあまりにも離れた場所にいると、当然ながらその庇護を受けることが難しくなるからだ。
唯一の例外が竜人同盟で、竜はその優れた飛翔能力で何処にでも素早く駆けつけられるから、構成員は自分の所領の位置に苦心せずに済む。
だが、それ以外の同盟に入ろうとすると、どうしても自分の浮島の位置というのが問題になるのだ。
浮島は『魔力推進装置』というものを購入することで、移動させられる。
領民または国民のMPを少しずつ消費して稼働させるのだが、推進剤が必要になるため、かなりの時間とコストがかかる。
そこでプレイヤーは、ひとまず最寄りの同盟に所属することになるが……。
「全てのプレイヤーが、滞りなく望んだ同盟に参加できるわけではない。交渉で折り合いがつかずに決裂することだってある。そこをもっぱら狙うのが、大鷲空挺団のやり方だな」
「ふむふむ……」
大鷲空挺団は、土地を持たない集団である。
飛空艇の中で経済の全てを完結させていて、言わば飛空艇を国としているのだ。
畑を耕したりは出来ないが、何かしらの方法でアルスを稼いでさえいれば、食いっぱぐれることはない。
常に飛空艇で移動しているので、驚異的な速度で進軍することができるし、何よりロマンがあるな……。
「ただ、大鷲空挺団の最近の振る舞いは、かなり問題になっている」
「新規に国を作ろうとしている人が、困るんですね」
「そうなんだ」
国を持たないということは、ハッキリ言ってしまえば海賊のようなものだ。
侵略を受けたプレイヤーは、全てを差し出して空挺団に加わるか、それとも全てを捨てて逃げるかの選択を余儀なくされる。
それを確実に回避する方法はあるにはある。
初期クエスト中に莫大なアルスを稼いで、所属したい同盟の近くまで浮島を移動させてしまうのだ。
しかしこれは、かなりの時間と根気がいる。
ともすれば普通に冒険者としてスタートして、それから同盟に参加させてもらう方がよっぽど早いかもしれない。
「新しい国が出来なくなるってことは、アルサーディア全体が発展しにくくなるってことだ」
「うーん、困った……」
大鷲空挺団、早く何とかしないと!
「冒険者同盟ってどうなんです? 規模だけなら竜人同盟の次ですけど」
「ああ、あれなー」
冒険者同盟は、竜人同盟に加わることのできない、主に男性プレイヤーのための同盟で、全ての浮島が一箇所に集まって大陸のようになっているのが特徴だ。
NPC達の自己防衛力に全てを委ねて、領地からの収益を得ながらグランハレスでの冒険したいという、贅沢なプレイヤーのための同盟だ。
規模が大きく密集しているのでその防衛力は相当なものであるが、近年になって台頭してきた勢力に脅かされている。
竜の剣という抑止力がなければ、とっくに切り崩されている。
またの名を「ひも同盟」だ。
「浮島の出現位置が、冒険者同盟の近くなら良いんだけどね。遠かったら目も当てられないさ。移動させるのにどんだけかかるか」
結局、冒険者同盟に参加できるかどうかは、浮島の出現位置にかかっている。
もしくは頑張って浮島を動かすかだ。
ちなみにジャスコール王国は、グランハレスを挟んだ反対側だ……。
――ピロリロリーン
「おっ?」
こんな夜更けに、誰かからメッセージが来た。
【新着メッセージ1件】
【テオドア・アークライト:『BS同盟は静観することにした』】
テオドアさんからだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もう寝たかな?
会議の結果は件名の通りだよ。
BS同盟はオトハさんの国には侵攻しない。
ちなみに、手助けもできない。
しようと思ったって間に合わないけどね。
まあ……無理だと思うけど頑張るんだね。
起きていたらの話だけど……。
彼らが、君の国をどう利用するか見ものだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んん?」
テオドアさんっぽい、クールな文章だ。
でもなんだろう、この内容は。
まるで、ジャスコール王国に未来がないかのような言い方じゃないか……。
「ふふっ、侵攻するにしても間に合わないと判断したんだね」
「むむ?」
「まあ、普通に考えて奴らが先に来るだろうよ……って、噂をすればなんとやら」
「むむむむ!?」
――バババババババババ……。
その時、遠くから何かの音が聞こえてきた。
月夜に浮かぶ、小さな影。
20〜30個くらいの小さなその黒い点が、羽虫のような音を立てながら近づいてくる。
「あれは……!」
よく見るとそれは、一つ一つが船だった。
木造のものがほとんどだが、鉄で出来た船もある。
その形は海に浮かんでいる船と同じで、無数のプロペラによって飛行している。
「大鷲空挺団だ」
ルナさんは言う。
「な、なにー!?」
俺達の王国に、飛空艇がやってきた!
今度の敵は空賊だ!
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