第64話 白金のムチ!
何事も、突き抜けると爽快であるというが……。
「お嬢様ばかりズルいでございます!」
「さ、サーシャ!?」
鎖から外された俺に、真っ先に食って掛かってきたのはサーシャだった。
「わ、わたくしも……! ハァハァ! 痛覚耐性を獲得しとうございます!」
「う、うん……?」
何だか目の色がおかしいが、きっと生真面目な彼女のことだ。
向上心が発揮されすぎているのだろう……。
「じゃ、じゃあ、次はサーシャだね……」
「はい……!」
メイド服のままだと服が破けてしまうので、サーシャは一番粗末な装備である、布の服に装備替えした。
そして、俺と同じように鎖で吊るされる。
「うあ……!♡」
そして、妙に艶のある声を出す。
鎖で吊るされるというのは、それだけで何とも言えぬ苦しさがあるものだ。
粗末な布の服を着て、目を皿のようにした村人たちに見つめられて。
自分でやっといて何だが、これはまさに……公開処刑!
「あのー」
「お嬢様ちょっとちょっと」
「はいい?」
おや、コヌールさんとユメルさんが何か言いたそうだ。
「服の上から打つより、直接素肌に打ったほうが効くのでしょう?」
「ちょっとその服に細工をして良いかしら?」
「は、はあ……どうぞ」
すると2人は、ハサミと縫い針を使って、サーシャが着ている服を改造した。
「「出来ましたわ!」」
「ぶほっ!」
なんと! 背中の部分がベロっと丸出しなデザインになっていた!
これは……『DTを殺す服』だ!
「これは目の毒では!?」
「いいえお嬢様、薬でございます!」
「目の薬ですわ!」
「ええー!?」」
毒と薬は紙一重ってか!?
「女の人だけでなく!」
「殿方にも着ていただくのでしょ!?」
「フガー!?」
なんと! FJを殺す服でもあった!?
「さ、サーシャ、本当にいいの!?」
「はい! とっても恥ずかしいので、ひと思いにお願いいたしますわ! オトハ様!」
「えっ! 俺がやるの!?」
――ドヨドヨ
――ドヨドヨ
村人たちが固唾を飲んで見守っている。
「せっかくですので、これをお使いになっては?」
「はっ! ベルベンナさんまで!」
いつの間にいたんだ!
我が領で一番ムチが似合うベルベンナさんが、『鋼の鞭』を俺に渡してきた。
「こ、これはちょっと痛すぎるのでは!?」
鋼の鞭と普通の鞭はかなり形状が違う。
普通の鞭は、木製の持ち手に1mくらいの細長い革がつけれられた、いかにもムチって感じのムチなのだが、鋼のムチはの形状は、競馬用のムチに近い。
よくしなる1mほどの鋼鉄製の柄の先に、手の平くらいの大きさの「ヘラ」が付いているのだ。
「やっぱり、普通のムチで少し耐性をつけてからの方が……」
これは殆ど、古代中国の拷問で使われていた『鞭』のようなものだ。
こんなものを腕力255の俺が振るったら、サーシャが壊れてしまうぞ……。
「いいえ! お嬢様! どうかそれで行ってくださいまし!」
「えええーっ!?」
サーシャって、そんなにドMだったの!?
「どのような敵が、どのような恐ろしい攻撃を放ってきても、鼻で笑えるくらいの強烈な痛みを、わたくしめにお与え下さいませ!」
「んなあ……!?」
「どうか、オトハ様の手で!」
「…………」
俺は言葉を失った。
な、なんて壮絶な覚悟だ!
(し、しかし……)
流石にそんなことをしては、村のみんながドン引きするのではなかろうか。
――ドヨドヨ
――ドヨドヨ
俺は村人たちを見つつ、アセットステータスを確認する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
平均忠誠値 99
領内格闘力 403 ベアー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
恐らくマイペースな爺さんのせいで、忠誠値が99に戻っているが、それでも十分に高いままだ。
サーシャに酷いことをしたら、これが一体どうなってしまうのか……。
「だ、だめだ……出来ない!」
俺は、思ったままを口にするが……。
――エエエー?
――そんなぁ……。
――ガッカリ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
平均忠誠値 99→92
領内格闘力 403→399 ベアー
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「なにぃー!?」
忠誠値がガッツリ下がったぞ!
さらにどういうわけか、格闘力まで下がってしまった!
ゲンナリしたってこと!?
「む、むむむ……!」
「何をしているのですかオトハさま! わたくしを焦らして遊んでいるのですか!? このような辱めを与えたまま放置して、実はドSだったのですか!?」
「えええーっ!?」
――やってくだせえ領主さまー!
――がんばれ領主さまー!
――サーシャさんもがんばってー!
「えええー!?」
男の人だけでなく、女の人達まで声援を飛ばしている!
やばい!
バグっているのは王太子だけじゃなかった!
村人たちもバグっている!?
「はははっ、これはもう腹をくくるしないなー」
「ルナさんまで!」
「大丈夫だって、痛覚制限もあるんだし」
「う、うーん……」
ゲーム内の人にも適応されるんだろうか……?
(こ、これは……)
つまり、俺のハートの方が試されている……。
鬼になることを求められてる!?
ならば……!
「じゃ、じゃあいくよサーシャ……ごくり」
「はい! 覚悟は出来ております!」
俺は、空中で2度3度素振りをする。
――ブウンッ!
――ブウンッ!
直径1センチくらいある鉄の柄も、俺の腕力で振るえば柳の枝のようにグニャリとしなる。
風を切る音が響くたびに、サーシャの腰がビクリと跳ねる。
「じ、焦らしすぎですわ! 鬼ですか!?」
「ご、ごめん……!」
さっさとやらないと、その方がサーシャはきっついようだ!
「じゃあ本当に行くよ!」
「は! はいいぃぃー!」
ダルスさんが何も言わずに小さな棒切れを持ってくる。
サーシャはそれをしっかり噛むと、ギュッと目をつぶって全身に力を入れた。
「うおおおおー!」
俺は鋼の鞭をふりあげると、渾身の力でサーシャの背中に打ち据えた!
「ぬうううぅぅん!」
――ピターン!
「ンギィッ!?」
【サーシャに257のダメージを与えた】
「は……う!」
サーシャは白目を剥いて、咥えていた棒きれを落とす。
そして……。
「あ、あ、あああああー!!」
「サーシャ!」
そして全身をガクガクと痙攣させた後、気を失ってガクッと項垂れた。
白金の絆がなかったら、命を落としている大ダメージだ!
――ジャラジャラジャラ!
すぐに鎖から外して回復させる!
「ヒール!」
――ドヨドヨ
――ドヨドヨ
打ち据えた場所が紅葉のように真っ赤だった。
そして、なかなか意識が戻らない。
俺は何だか恐ろしくなってくる。
「や、やりすぎた……!?」
「確かに、凄まじい一撃でしたな……」
ダルスさんが頬をペチペチしても目を覚まさない。
白目を剥いたままビクビクしている。
やっぱり、壊れてしまったか……!
サーシャのステ値を確認!
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名前 サーシャ (忠誠度:100)
身分 上級使用人
職業 メイド長
年齢 25
性格 きまじめ
【HP160→165】 【MP45→52】
【腕力 40】 【魔力 20→25】
【体幹力35→36】【精神力 22→32】
【脚力 35→37】
【身長 165】 【体重 39】
耐性 睡眠A 痛覚A(new!)
特殊能力 経営適正A 給仕技能B
月間コスト 30万アルス
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一気に痛覚耐性Aを獲得してしまった!
特に状態異常にはなっていないから、身体的は大丈夫なんだろうけど……。
「う、ううん……」
「サーシャ! 大丈夫……!?」
「は、はい……」
ヨロヨロと体を起こすサーシャ。
「ご、ごめん……やりすぎた……」
「い、いえ……そのようなことは……ハァハァ」
そして、何故か頬を赤らめ、潤んだ瞳でこちらを見てくる。
「す……すごく、良かったです……」
「え?」
ナニヲイッテイルノ?
コノメイドサン……。
「ああ、オトハ様……はしたない駄メイドと思われてもかまいません、どうぞもう一度だけお慈悲を……」
「うえっ!?」
と言ってサーシャは、再び俺に背中を見せてきた!
「……どうかもう一撃」
「ええええー!?」
「ありゃー、病みつきになっちまったなー? わかるぜー」
「ルナさーん!?」
悟ったような顔のルナさん!
もう何年もAROをやっているのだし、俺より全然大人なんだろうし!
さぞかし色んな『耐性』をお持ちなのだな!?
「ち、ちなみにルナさんの痛覚耐性は……」
「もちろんSだ!」
「ほええっ!」
ああ! きっと子供は知らない方が良い世界だ!
「あ、あう……オトハ様、お慈悲はいただけないのでしょうか……?」
「う、うう!?」
そ、そんな潤んだ目で見られたら俺……。
「だ、駄目です! 俺の鞭打ちは1人1発までです!」
どうにかなっちまいそうだ!
「そ、そんな……! あうう……!」
するとサーシャは、自らの体を抱きかかえ、ブルブルと身震いをした。
「で、でも……この胸の疼きもまた心地よく……ぶるぶる」
「!?」
喜んでるー!?
これが痛覚耐性Aの世界!
――ウオオオオー!
――俺も俺もー!
――私にもお願いしますー!
「うわー!?」
俺とサーシャのイケなささすぎるプレイに興奮したのか、村人たちがワラワラとステージに上がってきた。
えーい! こうなったら!
「ぜ、全員整列ー!」
――ハーイ!
そして公爵令嬢による、領民達への『痛覚耐性接種』が始まった!
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