第17話 死闘の果てに
――ゴガーン!
【ゴブリンキングから7のダメージを受けた】
――ガキーン!
【ゴブリンキングから7のダメージを受けた】
「まだまだぁ!」
相変わらず、ジリジリとHPを削られているが、幾分まともな戦いになっている。
そして段々とコツがつかめてきた。
「まるで……野球だな!」
意味がわからん……と思われるかもしれない。
だが実際、俺はそう叫ばずにはいられなかった。
ゴブリンキングの棍棒は、つまりは巨大なバットのようなものだ。
バットにはミートポイントがある。
つまり、そこで殴られるとすごく痛いというポイントがあるのだ。
「だったらそれを外せば!?」
「ググウ!?」
俺は死の恐怖を振り払い、更に一歩前に踏み出す。
――ガゴーン!
ミートポイントよりさらにグリップ側に盾を当てて、その威力を半減させる。
さらに――。
「フンヌウウウー!」
「うおおおお!」
――パカーン!
身をかがめて盾を突き上げる。
弾かれた巨大な棍棒が、俺の頭上を掠め飛んで行く。
【受け流し成功。ゴブリンキングから7のダメージを受けた】
【受け流し大成功。ゴブリンキングから5のダメージを受けた】
「よし! 見切った!」
そして俺は反撃へと転じるため、両手に装備していた鉄の盾を捨てた。
「グルルウ!?」
「反撃開始だ!」
装備重量の3割弱を占めていた盾を捨てると、軽くステップを踏めるくらいには移動速度が増加した。
「オラァ!」
――ドン!
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
鎧の上からボディーを打ち込む。
威力は微々たるものだが、そこは手数でカバーする。
「うおおらあああ!」
――ドドドドドドン!
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
そしてすかさずバックステップ!
振り下ろされた大棍棒が、俺の鼻先を掠めていく。
「ググー!」
思うようにダメージを与えられなくなって、ゴブリンキングはいきり立っている。
さらに横殴りに飛んできた大棍棒の軌道をそらすように、下から籠手を突き上げる。
――バキーン!
【武器を弾いた。ゴブリンキングから2のダメージを受けた】
【新スキル、ナックルパリイを習得した】
するとなんと、新技を覚えてしまった。
おそらくは格闘系の防御スキルだ。
拳豪を取得した効果が、早くも発揮されている。
「フングオオオオ!!」
「ぬおおおー!」
それから俺は、集中力を研ぎ澄まし、ヒット・アンド・アウェイを繰り返していった。
受け流すとは言え、ダメージは確実にくらう。
セルフヒールで回復させつつ辛抱するが、重い装備を着て全力稼働しているのでHPもMPも殆ど自然回復しない。
やがてMPが底をつき、雀の涙ほどの自然回復量で戦わなければならなくなった。
「オラオラオラオラオラァ!!」
「グオオオオオオ!」
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに1のダメージを与えた】
「ガガー!」
「ふうん!」
――ガキーン!
【ゴブリンキングの攻撃を弾いた。4のダメージを受けた】
「セルフヒール!」
僅かに回復したMPを消費してHPを補充する。
しかし!
「フンガー!」
「なに!?」
ゴブリンキングは、左右から叩き潰すようにして大棍棒を振るってきた。
とっさにバックステップを踏んで距離を取るが、十分にナックルパリイが効かず、したたかにダメージを食らってしまう
――バッキーン!
【ゴブリンキングから14のダメージを受けた】
「ぐはあああ!」
激しく脳が揺さぶられ、その場に両膝をついてしまう。
HPはもう残り1桁だ。
そこにゴブリンキングが飛び込んでくる。
「フングオオオオオ!!」
「ちい!」
もはや、鎧を着ていることに意味はない――!
俺はとっさにヘビーフルプレートを解除すると、転げ回るようにして敵の攻撃を回避した!
「うお! 軽!」
軽くジャンプするだけで、高さ10メートルはある天井にタッチできてしまった。
あとはこの機動力で、ひたすら回避を続けるしかない。
それに――。
「回復しちゃってるじゃないか!」
半分以下までに減らしたゴブリンキングのHPが、6割ほどにまで自然回復しているのだった!
「フウン! ヌウウン!」
さらにブンブンと振り回される大棍棒を回避しつつ、状況を打破する方法を考える。
このまま回避しつづけるか、それとも盾くらいは拾うべきか。
さまざまな選択肢があるなかで、最善手を検討するための時間はあまりにも少なかった。
俺は直感的に、拳で最大ダメージを与える方法に絞って考えていた。
(どうすれば……!)
とにかく、ダメージを与えないことにはどうにもならない。
――ブウン! ブウン!
攻撃をかいくぐりながら考える。
現実世界においては、徒手による最大威力の攻撃は正拳突き。
相手が倒れている場合だと、踏みつけるようにして繰り出す下段蹴りであるという。
しかしここは、現実世界とはちょっと違う。
俺の身体で、あの馬鹿でかいゴブリンを踏んづけたところで、大して効きはしないだろうことは容易にわかる。
「フンゴオオオー!」
「はっ!」
飛び上がって回避しところで、試しにその顔面に踏みつけ蹴りを見舞う。
しかし。
――ガッ!
【ゴブリンキングに3のダメージを与えた】
多少は強いが、最強というほどじゃない……。
おそらくは体重が不足しているのだろう。
今のところ、鉄の盾を使って繰り出したアッパー気味の一撃が、もっともダメージを稼げた技だ。
といことはやはり……。
「ガガガー!」
「はっ! うほっ!?」
天井、壁と跳躍して、まるでコウロギみたいな動きで敵を撹乱する。
そして俺は、完全にキングゴブリンの背後にまわった。
そのでかいケツがすぐ眼の前だ!
「うおおおー!」
俺はその股めがけて、渾身のアッパーカットを繰り出した!
――ドゴン!
「ギョッ!?」
【ゴブリンキングに4のダメージを与えた】
ゴブリンに性別の概念はないらしいので、いわゆる金的攻撃にはならない。
だが、俺が上方に向かって繰り出した、パイルバンカーのごときアッパーによって、体重300kgの巨体が僅かではあるが浮き上がったのだ。
(やっぱり――!)
今の俺が素手でくりだせる技の中だと、地面に足を踏ん張って突き上げる、アッパーが最強だ。
筋力の強さに比べてウェイトが軽すぎるから、いわゆる体重をのっけたパンチというのが意味をなさないのだ。
「グググ!」
「だったら、とことん!」
俺は四方八方に駆け回り、ゴブリンキングを撹乱する。
そしてその背後に回るたびに、股の下にアッパーという見た目かなりエグい攻撃を繰り出していく!
「やってやる!」
――ドシン!
【ゴブリンキングに4のダメージを与えた】
――ズシン!
【ゴブリンキングに4のダメージを与えた】
――ドガン!
【クリティカル! ゴブリンキングに8のダメージを与えた】
「よし!」
乙女さのかけらもない攻撃だが、それでも自然回復力を上回るダメージが発生しだした。
300kgの巨体を浮き上がらせるとは、まさに現実離れした全身のバネだ!
だがあともう一歩、決め手に欠けるな。
やはりもう少しウェイトが欲しい……。
「グオオオオー!」
「ふん!」
棍棒の先端をダッキングでかいくぐり、さらに背中側に抜ける。
その時、俺の眼に、古びた木箱が映り込んだ。
(……なんだあれ?)
そう言えば、ゴブリンキングは財宝を隠し持っているという話だった。
ちょっと気になるが、部屋の角にあるから近づきたくない。
コーナーに追い詰められたりしたら、逃げ出すのは至難だしな――。
「む!?」
とか思っていたら案の定。
「フウウン!」
「うわ!」
なんとゴブリンキング、片方の大棍棒を投擲して、俺の退路を牽制してきたのだった。
「ぐおっ!」
「フオオオオ!」
さらに、残りの一本を両手持ちし、重心を低くして迫ってくる!
――ブウン! ブウン!
「むぐっ!?」
巨大な風音を鳴らして振るわれる棍棒。
やばい、コーナーに追い詰められる!
危機を感じた俺は、さきほど目に入った木箱を持ち上げると、ゴブリンの頭部めがけて放り投げた。
「どりゃああああー!」
――ゴッシャーン!
ゴブリンキングがそれを棍棒で打ち払ったため、その中身が部屋中にぶちまけられる。
その隙きをついて俺は、コーナーから抜け出した!
「あっぶねえ……」
ゴブリンの財宝は、大小さまざまな原石だった。
中にはキラキラと光って高価そうなものもあるが、その多くは不純物のたくさん含まれた粗雑なものだ。
その中で一際目についたのは、人の拳ほどの大きさの『金塊』だった!
「む――!?」
それを見た瞬間、俺の脳裏にキュピーンと閃きが走る。
(金ってかなり重たいんだよな……)
さっき河原で見つけた金の粒も、見た目の大きさに比してズッシリとしていた。
金は数ある元素の中でも、特に重たいものなのだ。
(だったら武器になるか?)
そう思った瞬間には、俺の身体は動き出していた。
「ゲゲッ!?」
「いただき!」
財宝の中でも最も価値のあるものと思われるそれを奪われて、ゴブリンキングも焦るような表情を浮かべた。
1000万アルス分の価値のある金塊は、俺の手の中にちょうどよく収まるサイズであり、それでいてアイアンメイスと変わらないくらいの重量があった。
「これは良い武器だ!」
まさにこれが、運命の出会いだった――!
「グガガガー!!」
返せとばかりに襲い掛かってくるゴブリンキング。
俺は先ほどと同じように、敵の攻撃をかいくぐり、その背後に陣取る。
「ギッ!?」
「おそい!」
巨体が逆に仇となって、俺の動きについてこれないゴブリンは、振り返る間もなく俺の攻撃を食らうことになった!
「ゴールデンアッパー!」
適当に付けた、どストレートな技名を叫びながら、おれは金塊を握った拳でゴブリンキングの股間にアッパーをくらわす!
拳に握られた10kgを超える質量が、弾丸のごとき速度で射出される!
――ドッゴーン!
「ギャヒイ!?」
するとなんと、ゴブリンキングの全身が50cmも浮き上がったのだ!
【キングゴブリンに15のダメージを与えた】
「おおおー!?」
強い!
強いぞゴールデンアッパー!
まさに金の大砲だ!
10メートル以上もマンガみたいに跳躍できてしまうこの体。
その全身のバネを余すところなく武器に込めれば、それは人間離れした威力となるわけだ。
地面をしっかり踏みしめて、全筋力をあますところなく拳の質量にのせる。
それこそが、最大ダメージへの近道!
「もういっちょー!」
――ドッゴーン!
「ゲヒイ!?」
【ゴブリンキングに15のダメージを与えた】
浮き上がるゴブリンキング!
その巨体が地につく前に、間髪入れずにゴールデンアッパーを繰り出す!
同じことを、何度も何度も繰り返す!
「アパカッ! アパカァー! しゃがみ大パーンチ!!」
【ゴブリンキングに15のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに16のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに17のダメージを与えた】
むむ!?
ゴブリンが浮き上がった高さに比例して、ダメージが上昇している!
「そうか! ならば!」
「ゲゲゲゲー!!」
落下エネルギーもダメージに上乗せされているのだな!?
俺はさらに相手を天高くに突き上げるべく、必殺技な一撃を繰り出す!
「うおおおー!! 昇◯拳!!」
右、下、右下、強パンチ!
――ドッシーン!
【ゴブリンキングに20のダメージを与えた】
地面すれすれから加速された拳が、最大限に伸び切ったところでインパクト!
凄まじいダメージだ!
敵の巨体は、さらなる高みへと突き上げられる!
【ゴブリンキングから5のダメージを受けた】
「ぐおおお!?」
だが、落下してくる300kgの巨体を跳ね返すのだから、当然俺の身体にもダメージが返ってくる。
これが現実世界だったら、腕の骨がバラバラになっているところだ!
「セルフヒール! しょーりゅー◯ーん!」
――ズトーン!
【ゴブリンキングに24のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから8のダメージを受けた】
なけなしのMPでセルフヒールをうちながら、無我夢中で昇竜け――ゲフンッ、ゴールデンアッパーを撃ち続ける。
やがて、ゴブリンキングの身体が天井にぶつかった!
【地形ダメージ、ゴブリンキングは1のダメージを受けた】
するとなんと、地形ダメージが発生した。
これはもう一息だ!
キングゴブリンのHPは残り200を切っている!
「ぬおおおおおー!」
さらにゴブリンキングを天井に打ち上げ、激しく天井にぶつかって落下してきたところに、さらなる一撃を加える!
「でえええええい!」
――グッシャーン!!
凄まじい勢いで天井に激突し、弾むように勢いをつけて地面に墜落!
さらなる地形ダメージが上積みされる。
「グゲエアアア!?」
ゴムまりのように弾み上がるゴブリンキング。
そこにさらに――!
「アッパー!」
もう何度ぶち込んだかわからない一撃を、俺は必死になってぶちこんでいた。
攻撃は最大の防御!
無限コンボの始まりだ!
【ゴブリンキングに30のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから15のダメージを受けた】
【地形ダメージ、ゴブリンキングに4のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに8のダメージを与えた】
【地形ダメージ、ゴブリンキングに12のダメージを与えた】
【ゴブリンキングに16のダメージを与えた】
「セルフヒール!」
残りHP65! MPすっからかん!
相手の残りHPは130!
打つべし! 打つべし!!
限界まで打つべし!
【ゴブリンキングに19のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから7のダメージを受けた】
【ゴブリンキングに24のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから12のダメージを受けた】
【ゴブリンキングに29のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから20のダメージを受けた】
俺 HP 26
敵 HP 60
「うおおおおお!」
――ズゴーン!
「ギャヒィィン!?」
「いっでええええー!」
【ゴブリンキングに31のダメージを与えた】
【ゴブリンキングから25のダメージを受けた】
俺 HP1
敵 HP29
もう腕の感覚がない!
次で確実に死ぬ!
だが!
「やれる!」
そして俺は、デスペナ覚悟の最終打を繰り出した。
これで……!
「さいごー!!」
「グオオオオーー!」
【瀕死の一撃! ゴブリンキングに93のダメージを与えた】
なに!? そんなものがあるのか!?
【ゴブリンキングから43のダメージを受けた】
そしてやはり……死んだ!
さらに――。
【ゴブリンキングを倒した。3500の経験値を獲得した】
【新スキル『ドゥーム・ストライク』を習得した】
【称号『ゴブリン・スレイヤー』を獲得した】
【称号『不屈の闘魂』を獲得した】
何か色々ゲットした!
一体どんな代物なのか?
そんな疑問が一瞬脳裏をよぎるが――
【行動不能になりました。強制ログアウトいたします】
「あう……!?」
最後のシステムメッセージが流れると同時に、俺の意識はブラックアウトしていった。
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名前 オトハ・キミーノ
身分 公爵令嬢
職業 戦士
年齢 17
経験値 8291
【HP129→162】【MP40→65】
【腕力 35→41】【魔力 17→19】
【体幹力25→31】【精神力30→45】
【脚力 30→35】
【身長 175】 【体重 55→52】
耐性 恐怖C(up!) 刺突D 打撃D
特殊能力 経営適正D 回復魔法D 宝石鑑定D 闇魔法D 受け流しC
スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 吠える スタンハウリング 掘る シールドスタン ナックルパリィ ドゥーム・ストライク(new!)
称号 拳豪 ゴブリン・スレイヤー(new!) 不屈の闘魂(new!)
装備
金塊
絹の下着
ドロワーズ
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