第8話 婚約破棄フローチャート
いつも通りに学校行って、夕方に帰宅。
「宿題、宿題……っと」
先にやるべきことをさっさと済ませてしまう。
ホットミロを片手に1時間程度で集中的にやっつける。
予習とかが間に合わなかったら、明日の授業中や休み時間を使って埋め合わせる。こうやってわざと家での勉強時間を制限して、自分を追い込むことで時間効率を高めるのが、昔からのスタイルだ。
何事も効率的に済ませて、あとは好きなことをする!
それが公野家の家訓である。
そのうちに、両親が仕事から帰ってきて、妹も部活を終えて帰ってきて、一家揃っての夕食となる。
お風呂トイレ歯磨きを済ませてサッパリしたところで、いざVRギアをかぶってAROの世界にダイビングだ。
時刻は夜の8時を回ったところ。
今日は3時間くらいプレイできるな!
* * *
「……むにゃ」
天蓋付きの無駄に豪華なベッドで目を覚ます。
横になった状態でログアウトしておいたので、横になった状態からのスタートとなる。
大抵の場合、VRギアは寝た状態で使用するから、こうしておくと没入時の違和感が少なくて済むのだ。
ムクリと起き上がるとウェブ画面を表示して、吉田に教えてもらった「婚約破棄クエストのフローチャート」を確認する。
開始時の手順は以下の通りだ。
・チュートリアル終了時に婚約破棄クエストを選択。
・ジャスコール城に行って王様にご挨拶。
・城の中庭で、王太子と聖女がイチャイチャしているので、聖女にビンタをくれてやる(キックでも良い)。
間違って王太子にビンタしてしまうと国外追放されてしまうので注意。
・その後に城の周辺をウロウロしていると、聖女がとあるイケメンの青年(元カレ?)を口汚く罵っているシーンを目撃できる。
・さらにしばらくすると、ストーカー化した青年が聖女に襲いかかるシーンを目撃することになるが、そこで見て見ぬふりをする。
・男は衛兵達に取り押さえられ、聖女はかすり傷を負っただけで助かる。
これで、婚約破棄フラグが立つわけだ。
なんかひどい話だが、王太子は何が何でも聖女とくっつきたいのだろう。
ちなみに、ここで聖女を助けると『みんなお友達ルート』に入るらしい。
・屋敷にもどると、王太子誕生パーティーの招待状が届いている。そこで城に向かうと婚約破棄イベントが発生する。
この時にプレイヤーは、一発だけ王太子にビンタして良いことになっている。
別にやらなくても良いのだが、大抵のプレイヤーは盛大にぶん殴ってスッキリしていくそうだ。
ただし武器を使ったり、二発以上殴ったりすると、衛兵NPCが動き出して城の地下牢に幽閉されてしまう。
その後はお家取り潰しの上で国外追放となる。
復讐の機会はその後にもあるのだが、せっかくの財産が全没収となってしまうので、縛りプレイでもない限り絶対に避けること。
無事にビンタをすませて婚約解消となるが、その後も王室に莫大な税金を払い続けることになる。
浮気性王子と腹黒聖女の統治に付き従うという、屈辱の日々の始まりだ。
しばらくすると屋敷のすぐ近くに、ワイルド系イケメンが行き倒れている。
彼は竜神族の末裔であり、邪竜との戦いに力尽き「たまたま」屋敷の近くにたどり着いたのだ。
彼を家に連れて帰って、完全回復するまで介抱してあげると、忠誠度が100になった状態で仲間になってくれる。
(ただし、莫大な食料を消費する……)
ここで、何か恩返しがしたいと竜人が申し出てくるので、そこで婚約破棄の経緯を話すと復讐イベントが発生する。
プレイヤーは、その時のイライラ度に応じて、お好みの復讐を行うことができる。
復讐レベル0『竜人と一緒にサヨナラ! END』
竜化した竜人の背にのってグランハレスに飛ぶ。竜人はその後に故郷に戻るが、笛で呼ぶと1日に1度だけ助けに来てくれる。
竜人と元婚約者のいなくなった王国は、大抵の場合、他のプレイヤーに侵攻されて滅亡する。
いわゆるひとつの、ざまぁってやつか。
復讐レベル1『竜の力で納税免除! END』
竜の力で王家を脅して、納税を免除してもらう。
これが最推奨ルート。
王家の統治と聖女の回復力を確保した状態での領地経営が可能になる。
竜人はその後も領内に居座り、王国全体がその力で庇護される。竜の力は絶大で、余程の戦力で攻められない限り負けることはない。
さらに『竜人同盟』に加わることで相互防衛状態となり、ますます鉄壁になる。
ただし他国への侵攻を行うと、竜人は愛想を尽かせてどこかに行ってしまうので、非戦プレイを貫く必要がある。
また、竜人の影響でモンスターの出現数が大幅に低下し、域内生産力が低下する。
復讐レベル2『あの女だけは許さん! END』
王太子を誑かした女狐に天誅を加える。
竜人の力で城を攻め続けると、王太子が聖女を盾にして生き延びるという、小汚いシーンを目撃することになる。そこで攻撃を中止するとこのENDになる。
聖女の力は失われ、王室は弱体化するので、公爵家の財力をもってすれば容易に乗っ取れる。
竜人の庇護もそのまま受けられるので、公爵領の運営だけでは物足りないという人はこのルートを選ぼう。
復讐レベル3『汚物は全部消毒! END』
王家の縁の者を皆殺しにする。
王太子は非常に生き汚く、最後の一人になるまで死なない。
これは、竜人を頼らずに自力で内乱を起こした場合も同じである。
王太子が聖女より先に死ぬことはシステム上ありえない。
繰り返す、ありえない。
もう一度繰り返す、ありえない。
多くのプレイヤーが様々な手段を試みたがダメだったらしい。
王太子まで殺すと、竜人は流石に愛想を尽かしてしまう。
その後の王国は、公爵家の手によって運営されることになるが、それで上手くやれるかはプレイヤーの腕次第。
もっとも修羅の道といえるが、国全体の資産を上手く吸い取る事ができれば、莫大な資金を得た状態で、冒険者の道を歩む事ができる。
復讐レベルMAX『私の国は誰にも渡さない! END』
通称『真・悪役令嬢END』。
一国全て、竜の炎で焼き払う(竜人にはそれが出来る)。
もう他のプレイヤーに乗っ取られるのもイヤという人向け。
一人のご令嬢のために作られた浮島国家は、そのエゴのために一夜にして滅ぶ。
プレイヤーは無上のカタルシスともに、燃え落ちていく故郷を、竜の背に乗って見送る。
ある意味では、ロマンチスト向け。
「ふむふむ……」
竜人同盟に加わって、華麗なる令嬢ライフを送りたいのなら納税免除ENDが第一選択なのだ。
ちなみに、初期クエストが終了するまでは、王国内から出ることが出来ないし、また他のプレイヤーも入ってこれない。
だから安心して婚約破棄クエストに専念することが出来るぞ。
「うーん、しかし」
王太子の生き汚さはなんか腹立つな。
何とかして王太子だけ殺せんもんかと考えた人はこれまで沢山いるらしいのだけど、システム的に不可能なんだから仕方ない。
『王太子だけ生きている』という状況はあるが、『聖女だけが生きている』という状況はどうやっても発生しない。
聖女が持つ回復力促進の恩恵を受けるためには、どうやったって王太子を残さなければならないのだ。
「ムラムラするなあ……」
王太子の悪役感を強めるための設定なのだろうけど……。
俺は、忸怩たる気持ちを抱えながら、自室を後にした。
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