第4話
黒ねことお姫さま 池上加津
室町幕府 日野富子
この頃、お姫さまの気分が優れず話も少なくなり、黒ねこも心配するが誰にも話すことができず困りはてる。
「こんな時にカラスの勘三郎さんがいれば、どこにいるのやろ、カラスの勘三郎さんは、」
悩みながら一人でつぶやく黒ねこであった。
「なーお姫さま!そろそろ誰ぞに取り憑かねば、元気だしてーなー、」
黒ねこに小さくうなずくお姫さま、そこに妖怪カラス勘三郎がやってくる、
「お二人さん元気ですか、」
「いいところに来てくれた!お姫さまの元気がないのや、どうしたらいいのか?」
妖怪カラス勘三郎がお姫さまの顔を覗き込む、お姫さまは下を向くばかり。
「ふむ、姫さま!もしかしたら昔の事を思い出したんと違うか?」
お姫さまがうなずくのを見る勘三郎
「昔に戻りたくなったのか?」
大きくうなずくお姫さまでした。
「お母様に、逢いたいのお母様はどこにいるの?もとに戻りたいねえ、カラスの勘三郎さんわたくしを元に戻してお母様のいる所に!」
「これだから、人間は嫌いなんだ、黒ねこさんよ、われらは産まれた時しばらくは親と一緒にいるが、後は自分で生きてゆくだけさ、後はなんの未練もない!そうだろう黒ねこさんよ、」
泣きべそをかき出すお姫さま、困った顔をする黒ねこであった
「お姫さまよ、空が飛べるようになったら、良い所に連れていってやるよ、だから元気だして人間どもを脅かしたり、恐がらしたりして妖怪らしく力をつけてくださ、」
「いい所ってどこ?」
「それは秘密、空を飛べたらね、」
少し元気がでたのか、黒ねこに
「くろちゃんごめんなさいね、わたくし頑張るから、空を飛べるようになるために、」
少し明るくなったお姫さまに安心する黒ねこでありました。
「それより誰に取り憑く?取り憑けるような猫がいない。」
「仕方ないかも、このごろ不景気で人間でも食べてゆくのが大変な時代なんだから。」
カラスの勘三郎に言われ、世間を見渡すと貧しい人達が目立つのであった。
人が貧しいと犬や猫を飼うゆとりなどない、
「どうする?どうしたらいい勘三郎さん、」
「わしに頼るなー、自分らで考えろ、それが妖怪だろーわしは用があるまた逢うのを楽しみにしている、サラバ、」
「サラバって無責任な、少しは力になってくれればいいだろ!、」
黒ねこがぷりぷりと怒りはじめる、 「くろちゃん、勘三郎さんに言ってはだめでしよう二人で考えなくては、」
「そうだな、ニヤンとか考えよう、」
「ニヤンとかね、可笑しいでもニヤンとかしなくてはねー、」笑いあう二人はやっと元に戻ったように思い、ホットする黒ねこでした。 その時 目の前に太った白ねこが走り去ってゆく。
「待って、くろちゃん今ね白いねこが走り去って行ったよ、」
「本当か!どちらに」「お兄さん」ら
走り去って行ったほうにゆく二人、大きな屋敷の前につく
「大きな屋敷だね、」
「だから太っていたのよ、けっこう太っていた白ねこだったのよ。」
二人は土塀も塀も関係なく襖も擦り抜けて、白いねこを追い掛ける、豪華な座敷の隅に座り毛繕いを始めだした、白いねこでした。
「今だゎ!!」 二人は白ねこの躰に入ってゆく。
「ギヤー、なにするねん!おまえらだれだ!」
「すまんしばらくおらしてくれ、俺らは絶対におまえに、役に立つから、いいだろ」
白ねこは自ら追い出すことができず、我慢するしかなかった。
襖が開き一人の少女が入ってくる、気分の悪い白ねこは少女に近付き小さく鳴くのであったが、人にはねこの言葉はわかない、白ねこを抱き撫ぜるのであった。
「ねえ、しろちゃんやっぱりわたしは足利家に嫁がねばならないのかしらん、まだわたしは十四歳よ早いよね。」
しろと呼ばれたねこが、少女のほほを舐める、ざらざらした舌である、少女の名前は日野富子、室町幕府八代将軍足利義政『よしまさ』の正妻になる運命を持っている女性である。まだ可愛い少女だった、二年後に足利義政の妻になる事が決められていた。
白ねこの中にいるお姫さまは富子を可哀想にと、思うのであった、何故なら自らもそうであった、ことを思い出す、
「でも、仕方がないかも、自分一人では何もできないものね、富子さん応援するからね、」
白ねこの中で叫ぶお姫さまであった。そんな事はわからない富子は猫を膝から降ろし、棚から錦の袋を取り出し、中から穴開貨幣を取り出す。
「しろ、これは大事なお金なの、この貨幣でなんにでも買えるのよ、わたくしは大好きなの、お母様は「おなごが貨幣などに興味を持っなど、殿方から品を疑われます、あなたは日野家の姫なのですよ、もう少ししたら足利将軍の妻になる身、足利家であなたが笑われたらこの家の恥になるのですから」って叱られてばかり、」
この時代、貨幣は渡来銭『とらいせん』と呼ばれ永楽通宝『えいらくつうほう』と言い、制作もよく重さも一定なので信用もでき、好んで使われたのであります。
勘合貿易によって明の国より大量の銭を輸入していた。また我が国が作った私鋳銭が出回りましたが粗悪で鐚銭‘『びたせん』と呼ばれ、これを受け取るのを拒む人も多く、室町幕府は永楽通宝を使われていた。
富子が好んで持っているのも永楽通宝である。富子の兄日野勝光は幕府の財政官で中心となって室町幕府を支えていた。
「ひめさまお兄上さまがお帰りになられました。」
「お兄さまがお帰りになられたの。」
うれしそうに笑う富子は初々しく、可愛い少女である。
「しろお兄さまがお帰りになられたって、お顔を見に行きましょうね、」
ねこを抱き兄の部屋に行く富子、その時の富子は何も知らない乳母日傘の娘であった、世の中の中ではあちらこちらで戦の火が上がっているなど思いもよらぬことであった。
「お兄様、お兄様…」
「これ!富子あまり大きな声など出すでない、はしたないぞ、それより何の用なのだ。」
富子は立ったままで頰を膨らまし、 「だってお兄様長いこと、帰っていらっしやらないもの、富子つまらないもの、」
「困った妹だ、あと少しで義政さまの所に嫁ぎに行くと言う娘なのに、」
少し寂しげにする富子
「ふふふ、しかたない娘『こ』だ何か話しでもあるのか?」
母を同じくする兄妹、歳の違いもあるのか妹を我が子のようにかわいがる、日野勝光である。
富子は兄から貨幣の取り扱い、またどうやったら増やせるのかを兄よりレクチャーを受け富子自身、面白く兄の話を聞き算盤を弾き誰よりもうまく算盤を使うのであった。 父、重政は妻より愚痴を聞き 「勝光!富子はおなごよ算盤や貨幣のあっかいなど無用ではないか。もっとおなごらしい事を覚えさせねば。」
「父上、お言葉を返すようですが、富子は幕府の奥に入る身、今の幕府は父上も御存知と思いますが、今の幕府の金蔵に、金、銀どころか永楽通宝すらありません。嫁ぐ富子が苦労するだけです、今から貨幣の扱いを知り財政を立て直させなければ、今のように湯水のように使っていれば、大きな戦火が起きれば幕府とて、持ち堪えられないでしょう。」
重政は腕組みをして考え込む。
「勝光の言うとおり、幕府に金はないだが富子は女、富子に財政を立て直すなど、それより一刻も早く子供を授からねば、我が一門の子を将軍にせねばならぬ。」
「父上!それより幕府が潰れたら何もなりません。そう思いませんか?この日野家もお上『おかみ』より幕府の財務をみることを命じられ、幕府の献上品、国内からの参入など、我が日野家の見る所ではありませんか?それをほかの家に財務を渡してよいものでしょうか、」勝光の言葉にうなずく重政二人が顔を見合わせ頷きあう。
「お姫さまどうやら、外の世はなにやら厳しいようですね、どうします?このままこの猫の中にいていいものかどうか?」
「くろちゃん、なにやらこのおひめさまの婚儀の後ろには不気味な悪い陰を感じます、今までのように小さなお屋敷ではなく大きなお屋敷のようですね、それにあのおひめさま白ねこちゃんとも遊ばず、だから白ねこちゃんが太ったんだね、かわいそうな白ねこちゃん、わたくしたちで見ていてあげなくてはね、」「うるせえなー、ひとの躰の中でおれはいいんだよ、動くのが嫌いなんだから、」
とつぶやき大きなあくびをする白ねこだった。
時が過ぎ、早いもので富子が嫁ぐ日がきた、富子は白ねこのしろを手放ず、周りの人を困らせる。
「ひめさま、ねこをつれての婚儀なぞ聞いたこともありません。ねこをお放し下さいませ、われらが叱られます。」
「いやじゃ、しろと一緒でないと行かぬ!」
付き人の大臣が困り、富子の母北小路苗子の元に走ってゆく。
「ひめ!ねこも一緒でないと行かぬとはこのような話、聞いたこともないのですよ、この母がねこの面倒を見るゆえ置いてゆくのです、」
「いや!絶対にイヤー、」
「そのような我が儘は通りませんよ、あなたは将軍の妻になるのだから。」
色々と説得をするが、誰が何を言っても聴き耳持たず
「ひめさまー、」
白ねこの中にいるくろが、嬉しそうにお姫さまに、
「えらい気性の強いおひめさまだー!ね、お姫さま、これからどうなるのだろー、」
大丈夫、あのおひめさまならこれから先に起きることも乗り切れるようですね、」
白ねこのしろを連れて嫁いでゆく室町幕府八代将軍足利義政の正室として花の御所に嫁いでゆく。富子十六歳の時である。乳母や侍女から伽の事を聞かされて育っている富子は、将軍義政をまつが幾日待つても富子のもとに来る事がなかった。白ねこの中にいるくろが心配して、姫さまにとうが、
「ほかに女の人がいるのでは、」
「見に行きましょう、」
「おまえたち、人の躰の中でごちゃごちゃ言うな、」
「おーい白ぶた、おまえは寝てばかりしているからそんなに太るのだ、少しは動け!」
「イヤだ、動くのはキライ、」
「動かないのなら、おまえの躰の中でわしらがあばれてやる!」
「それはやめてくれー、」
白ねこしろは仕方なく、大きな躰を動かし屋敷の中を歩き回る。
「おい、しろや奥のほうがなにやら賑やかだ、人も多そうだし音を立てずに行け!」
「えらそうに、太っていてもわしも猫、足音なぞたてるか!」
しろが人の声がするほうに近付く、女官が楽しそうに話しをしていた。 その中で豪華な打掛を着ている女性に目にしていく、扇で口を押さえて笑っていた。
「ん、あれ何者じやー、」
しろが首を振る、そっと後退りして去って、もとの富子の部屋に帰りつく。 富子の部屋には兄の日野勝光が来ていた。「しろ、どこに行っていたの?」
富子の膝にどっさりと乗る。
「富子!気になり来て見ればそうか、義政殿は昔から今参局『いままいりのつぼね』を溺愛していると聞いてはいたが、そこまでとは、」
「兄上様!富子はどうすればいいのですか?」
不安そうな声の富子に下座に座っていた勝光が富子の傍に行き肩を抱く。
「この兄が何とかしてみよう、」
勝光が帰ってゆく。富子もやはり女なのか寂しそうに見送る。
「兄上!」 小さく呟く富子、
「あの女!今参局だ!どうしてやるかなー、正室の富子さまを無視をしてよ、」
「これ、くろ正室になったら殿御に女の一人や二人作っても焼いてはいけないと、母さまから教わりましたよ。」
「お姫さまそれは!お姫さまの時代?」
そのころ日野勝光は将軍義政の前にいた。
「上さま『うえさま』にはご機嫌いかがにてお過ごしのことと思っておりますが。」
「勝光殿か?そなたもご機嫌はいかがかなー、」
勝光は軽く頭を下げご機嫌を窺いながら、
「この度は我が妹が上さまの御寵愛を受け恭悦至極に存じ上げます、」 ドキとする義政、富子が嫁いできて今だ臥所を共にしていない。
「それより勝光殿今日は何用かな」
「我が妹が嫁ぎ、いかな暮らしをしているかと、富子はまだ幼きゆえ義政さまのお気持ちに添えているのかと心配にて、」
少し狼狽している義政であった。
「室はまだ幼きゆえ、この館に馴れるまで、見ていようと思ってなー、それより勝光どの財務のほうは上手くいっているかなー、」
「はい、あちらこちらの戦のためか、なかなか税が集まりません、上さまなんぞ思案がありますでしようか、」
「いや、なにも、」
歯切れの悪い義政であった、頭を下げ義政の前から下がってゆく勝光が何か気になるのか?もとのようにもう1度、座り直し
「上さま、今参局さまや侍女たちが、一度も富子の前に挨拶もなきようですが、いかがなものでありましょうか、幼くても正室は正室ではありませんか!館のものが挨拶もないとは妹は認められないのでは、今参局さまがそこまで力があるのですか?」
「そうじやな、気がつかなんだゆるせ。」
義政の胸の内は今参局のことを突っかれるのは、痛かった乳母をいまだ自分の側室にしているとは、
その夜、義政は初めて富子と、寝所を共にするのであった。
白ねこしろは部屋を追い出され、一人とことこと今参局の所に行く、 「おい今日は、今参局は酒を呑んでいるぞ、」
「だって将軍はひめさまの傍!きっと腹をたててやけ酒を呑んでいるのね、」
お姫さまがくろに声をかけ覗き込む。
「おい、お前たち覗き込んで、「家政婦は見た!」か!」
「白ぶたお前はやっぱり面白い!「家政婦は見た」か、おいそれは後の世の話しだろー、」
しろの躰の中で三匹は話しをする、そのとき!激しく声がかかる、
「そこにいるのは誰!」
その声で侍女たちが、走って来る慌てて逃げる白ねこしろ、だが太っている躰は敏速には逃げられずその時、躰の中にいるくろと、お姫さまが煙となり白ねこしろを隠す、煙の中から化け物が現れ侍女たちに襲い掛かる。悲鳴のような声を出し脅かす、腰を抜かす侍女たち、その間に白ねこしろはとことこと逃げ出すのであった。
「どうしたのですか?」
今参局がやってくる時には煙も化け物もいない。
「はい今、化け物がそこにー、」
「誰もなにも、居ないではないか、見間違いではないのか!」
侍女たちが首を傾げる、白ねこしろが部屋に戻りふーと息をはく、
「無事に逃げれた、お前たち!人の躰の中に入いり、好き勝手なことを、」「面白かつた、ねえお姫さま、」
「そうですね、少し刺激がありましたね、」
「そんな、のんきな事を、」
ぶつぶつ文句を言う白ねこしろ、大きな躰を振るわす。
それから数ヶ月、富子の懐妊がわかり義政の喜びは大きく、一時京の町も喜びに沸く。 久しぶりの吉事である。
喜びの裏に、畠山義就『はたけやまよしなり』が将軍義政に謁見し、管領畠山政長が罷免される。
これに代わり斯波義廉『しばよしかど』が管領になる、裏で畠山義就に知恵をつけた山名持豊『やまなもちとよ』は、、(これで細川勝元が怒り戦にもってこょう)、胸の中でほくそ笑むのであったが、細川勝元はすぐには動かなかった。不穏な日々の中、富子の出産が近づく。御所の中も慌ただしく人が動いているが、白ねこしろの中にいるくろとお姫さまが、妙な気持ちになるが、何もない富子が男の子を出産し人びとが喜びに沸き上がっているなか、やはりくろとお姫さまは異常なものを感じ、館の中を歩き回る静かなものである。
「やはり考え過ぎか!」「くろも何か変なものを感じたのですか、」
「はい、おひめさまが懐妊してから、少しづつ奇妙な気を感じるのですが?」
首を傾げながらお姫さまも
「わたくしも同じです、何でしようこの気持ちの悪さは、」
白ねこしろの躰の中で話し合い、館の中をとことこと見て回るのであった。
赤子もすくすくと育っていっていたのに、ある日急に高い熱を出し両親が見守る中、息を引き取るのであった。
幼き子を亡くした両親の嘆きは哀れであった。
「やはり、誰かが呪詛をしていたのでは、」
「姫さまもそう思いますか、もう少し丁寧に探してみるか!」
館の中だけでなく庭から土倉の中、また侍女の室も丹念に調べてまわる。今参局の仏事の間を覗くと、不思議な匂いが漂うが香の匂いとは違う?
「お姫さま!この匂いは何の匂い?」 「これは香木でも密教の深い人に知られたくない、秘めごとで使う事がある香と思います、人に知られたくない、行をおこなう時などに使う香だと?わたくしも一度ぐらいしか嗅いだことがないから、」白ねこしろがとことこと匂いがするほうに歩いてゆく。
「お前、この匂いのこと知ってんのか!」
「知らない!でも美味しそうな匂いだから、」
「お前!変なやっちやなー、こんな気持ち悪い匂いが美味しそうなんて、お前変態か!」
「だれが変態だ!お前に言われたくない!、」
躰の中でいがみ合う。
「やめなさい!それより見てあの人の形の紙を、」
白ねこしろが爪で紙をひっくり返すと、裏面に小さく文字が書いてある。「お姫さまわしらは人の字が読めません、何て書いてあるのですか?」
「これは梵字のようね、わたくしにはわからない、わかる字は小さく富子の子と読めるようですね、たぶんここで富子さまのお子様への呪詛をしていたと思います。」
「お姫さまどうする、わしら猫!どうする事もできない。」
お姫さまは首を傾げ、
「そうだ!これをこのままにして、勝光さまになんとか知らせるのよ、」【どうやって、】
二匹が声をそろえて言う、
「まずわ、ここを出て考えよう、」 その夜、勝光の枕許に行き、耳元に囁く。
その前に白ねこしろを見て、
「しろ、お前は少し離れていなさい。」 黒ねこくろとお姫さまが、白い煙となって勝光を起こす。 「勝光どの勝光どの、」
「ん、んん、誰だ!人が寝ているのに、そなたは見慣れぬ女子『おなご』よのぉ、」
「わらわは神の遣い姫じやー、」
「ええー、遣い姫?その遣い姫が何用じやー、」
「花の御所、今参局の仏間にひと形の紙がある、その裏を見よ、」と言って白い煙となって消えていった。 勝光は、富子の子供が亡くなったあとである、あの夢はなんだったのかと考え込む。
朝が白々と明けてゆく。
朝早く花の御所を訪ね、義政に面会を願い出る。
「勝光!何用か!このような朝早くに、」
「はい、昨夜?いや今朝、明けがた神への遣い姫が枕許にたち、「今参局さまが呪詛で富子さまの子供を死に追い遣った」と、」
「なに!聞き捨てないことを、本当か!」「わかりません。神の遣い姫がおっしゃいました。」
義政は、怒りを抑える、義政にとっては初めての男の子、それも妃の産みし子供である。
「勝光!呪詛に遣う部屋はどこに、」 怒りに震え、今参局の部屋に急ぐ!そのころ今参局の女官が呪詛の後始末をしょうと、仏間に入いり、ひと形の紙を手に部屋を出ようとした時に、将軍義政と勝光に出会う。
「そなた、この部屋で何をしていた!」
「はい、仏間のお水を差し替えようと思い、この部屋に、」
慌てて、手に持つものを袖に隠す、 目聡く袖に目をやる勝光であった、女官の傍に行き持つ手を捻じ伏せ、
「これは何!」「何もございません、ゴミにてございます。」
女官が持つ白い紙を取り上げ、ひと形紙を将軍義政にわたすのであった。 義政は黙って紙を受け取リ、ひと形紙を調べ顔が曇ってゆく。 「これは何んだ!」
黙ってこうべをたれている女官、
「お今が呪詛に遣っていたのか!お今に言いつかって呪詛の紙始末しょうとしていたのか、どうなのだ!」
「今参局さまには、何の関係もございません、このわたしが一存にて、」
この騒ぎを、嗅ぎつけやってきた今参局、 「これは上さま、何んの騒ぎでございますか?」
黙って差し出す義政、差し出された物を手に取り顔色も変えず、
「これは?」 澄ました顔の今参局に怒る義政であった。
「そなたは!富子の産みし子を、呪詛をしたのか!」
「上さま!なにゆえこのわたくしが呪詛など、知りませぬ!」
今まで義政は、今参局が心地好く、足繁く通い慈しんだ女に裏切られ怒り心頭する義政、
「今参局どの、この部屋はどなたの部屋なのですか、」
日野勝光に尋ねられるが、澄ました顔で、 「仏間ですが、なにか?」 「では今参局どのは、富子さまの産みしお子様に対して呪詛をしていないと、」
「何故、呪詛などしなくてはならないのですか、上さまの大事なお子様をわたくしがそんな大それた事をするわけがございません、そうでございましょう上さま、」
義政に甘えて縋る、今参局、今の義政には今参局の甘い言葉も空々しく聞こえる。
「お黙りなさい、今参局どのご自分の仏間でまたご自分の女官の手に持つていた、呪詛のこのひと形裏に書かれている文字、これをどう説明なさる!」
「それは…、」
「それは、なに?ご説明を今参局どの!」
唇を噛む今参局である。
庭の隅で成り行きを見ている白ねこのしろであった。
「おい、これで富子ひめは安全、よかったよかったなー、」
くろがしろの躰の中で、お姫さまと話し、お姫さまも大きく頷く。
「おいお前ら、これでわしの躰から出て行ってくれるんだろうなー、」「いやだ!誰が出てゆくものか、なーお姫さま、」
「とほほほー、出て行かないのか、」白ねこしろは肩を落して、富子のもとに帰ってゆく。
今参局の刑は琵琶湖にと流れこの一件に決着がついた。しばらくは平穏な日々が続くが、御所の外は戦がひどくなってゆくのである。
着々と戦備を整えていった、細川勝元方(東軍)は幕府を占拠し義政を擁し、西軍に攻撃を開始する。
山名持豊『やまなもちとよ』のちの崇全を中心として合戦となっていった。 将軍義政は東軍細川勝元方に擁されていたが、西軍の山名持豊には京に、下国するよう進めるのである。
畠山政長邸付近より火の手が上がり、戦乱となってゆく。戦乱の危険を感じた。天皇や上皇さまは花の御所へと避難なされるのである。 戦乱のなか富子は幕府の蔵に金もなく先の不安が大きくなってゆく。
「どうしょう、このままでは足利家は潰れるのではのー、しろよ、」
こうして富子は政治の世界に首をつこんでゆく。 それに反して義政は政治の世界に嫌気がさし少しずつ、富子に任せてゆくのであった。その富子は京への出入り口に関所を作り貨幣を取り、富子一代富をなす。
義政は荒々しいことが厭になり東山慈照寺(銀閣寺)に着工してゆく。完成には十年の歳月を費やす。
「のー、しろよ義政さまは政ごとに興味がないのであろうか。」
富子の膝で大きなあくびをして富子の話しを聴く、今参局が琵琶湖の島に流れてから、しろにとってゆっくりとした時が流れ一日中昼寝をしている白ねこしろであった。「おーい、しろ少しは動け!わしらが退屈ではないか、寝てばかりするから太るのだー、」
「これくろよ、あまり急がすでない。くろどうやらしろも年のようじや、寝ることによってやっと命を保ているようです。」
「おーいしろお前の歳は何歳なんだ、」 「知らぬ!わしら猫がいちいち1歳、2歳などと数えるものか、もう長く富子ひめの傍にいるような、」
白ねこしろは毛が白いので老けていても誰にもわからなかった。
富子ひめが五、六歳のおりに拾われ、富子ひめの手許にいる。
「そうすると、もう二十歳は過ぎているのね、それはそれはもうお歳ねー、疲れるわよねー、」
頷くお姫さまであった。
将軍義政を幼き頃よリ、今参局や女官、侍女たちに囲まれて育った義政、それにくらべ富子の実家、日野家父の代より物事を自由に考え、兄勝光より物質の動きを教えられた富子、今参局達の苛めにも感心を示さず、その姿に義政が気に入っり夫婦の仲はよかったが。
今参局の側にいた待女が富子の毒殺せんと年月を
かけて狙っていた。
毒の入ったお茶を運んでくる 待女、それを手に取り飲もうとしていた富子、その時白猫しろが膝から降り富子の茶碗に飛びつき茶碗を落とすのである。その落ちたお茶をペロペロと舐めるしろ、しろの躯が激しい悲鳴と躯がえびのように曲がってゆく。躯の中では、「しろ!ばかかあんなにあのお茶に毒が入っていると言っただろー」
「わかっている、富子ひめに何かあったら死かけていたわしはひめに拾われて、ひめには恩があるのじやどうせ生きていても後、数日の命。」
「しろちゃんそんな数日なんて、わたし達仲良くしてきたじゃあない頑張って下さい。」「んんん、もういいよ楽しかったよ、君たちと出会って面白かったありがとー、もし君達がおひめさまに逢えるなら、おれの替わりに富子ひめさまにありがとーと言ってほしい、たのむ。」静かに息、引き取るしろ、富子ひめの嘆きは大きく、しろの躯を抱き締め泣きじゃくる、その夜泣き泣き眠る富子の側にいる待女までが哀しむのであった、夢を見る富子しろの夢、しろが語る富子といる楽しかったことを、富子ひめも夢の中でしろと遊ぶ、少し哀しみが和らいでいくのであった、その中でしろは富子ひめにありがとーと言って小さく消えてゆくのであった。
義政は男子誕生をあきらめ、自分の弟である義視を養子にして次期将軍にしようと思うのであった。
弟を将軍にして足利家の安泰をはかるが、義視の後ろに細川勝元を控えさせ、政治力をはぐぐみそうであった。
義政は義視の将軍をのびのびにしていると、富子が懐妊し、男の子が生まれ後の義尚『よしひさ』である。力を増してゆく義視に義政は、酒に酔い将軍にすることを延ばす。また日野家より義視を遠ざけるように申し出てくる、富子は息子の後見人として、山名持豊『崇全』にたのむ。当時武士の棟梁で、財力も人望もあり、義視と真っ向から対立してゆくのであった。また将軍家の一員として細川勝元側につくこともあり、大乱の元凶として「悪女」と言うレッテルを貼られる、富子であった。
高い所から大乱を見ている、黒ねことお姫さまとカラスの勘三郎であった。
「人の世がいやになりました、哀しくつらいです乱のない世に行きたい。」
「お姫さま!」
黒ねこも下を向く、空を飛ぶことができるようになったくろとお姫さまでありました。
「どうです、お姫さまわたしと一緒にある人の元に行きますか?」「どこに行くのだ、」
「くろちゃん、もういいじゃない、長く人の世を見てきたから、どこかに行こよ、」
「お姫さまが行く所なら、どこにでも付いていきます。」
カラスの勘三郎と共に高く飛び去ってゆく、黒ねことお姫さまでありました。
完
長い事、読んでいただきありがとうございます、これで「黒ねことお姫さま」を終わりといたしたく、本当に愛読を心よりお礼を申し上げます。また違った作品を読んでいただきたく、これからも応援よろしくお願い申し上ます。
黒ねことお姫さま 池上加津 @1160
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