第11話 能力選考
LC1426年3月10日――
今日も天気は快晴。まだ少し冷え込む朝、2人は行動を開始した。
「さて、応募してくれた方たちには、今日、俺の方から募集条件の訂正を申し入れておく。申し訳ないが、能力が条件に満たない方にはお断りすることになる」
「そういう意味でも、タダというのはよくなかったですね……」
「ある金額を提示するということは、それに見合った働きを要求するということでもあるからな。まぁ過ぎたことはいい。それより、能力選考をするにあたって選考基準を作りたい。勇者学園ではきっとそういった成績をつけているだろう。今からお邪魔できないかな」
「大丈夫だと思います」
少し元気のない返事。
「ありがとう。こうやって方々に融通が利くのはお前のおかげだ。俺一人では何も動けないところだ」
と、持ち上げておく。
「ハ……ハイ!」
すぐに声色が1オクターブ高くなった。わかりやすい子だ。
*
勇者学園。
今日もグラウンドを生徒が走り回り、道場内では掛け声が響く。職員室にお邪魔した真黒は、さっそく教師にどんな評価項目、評価基準があるか聞いてみた。
その回答は、以下のようなものだった。
【評価項目】 【評価基準】
・近接攻撃力 巻藁破壊
・中距離攻撃力 巻藁破壊
・遠距離攻撃力 巻藁破壊
・単体攻撃力 巻藁破壊
・範囲攻撃力 巻藁破壊
・物理防御力 評価者の攻撃を防御
・物理回避力 評価者の攻撃を回避
・魔法防御力 評価者の攻撃を防御
・魔法回避力 評価者の攻撃を回避
・術種類(聖術/魔術/法術) 自己申告
・体内マナ保有力 マナの実生成
・外部マナ反応力 マナクリスタルへ術を使用
・敏捷性 短距離走
・持久力 長距離走
・第六感 暗闇での反応力
「ふむ……攻撃力をいろんな観点で見ているんですね」
「えぇ。この世界にはさまざまな魔物がいますからね。勇者候補の能力としても、近づけない敵にも強いかとか、集団の敵に強いかとか、いろんな観点で評価する必要があります」
教師は鼻先にのっけた眼鏡をクイッと上げながらそう答える。
「だいたいわかりました。が、この"マナ"というのはなんです?」
エロインとプロジェクト計画書を作成しているときにも少しは聞いた言葉ではある。まぁいわゆる魔力みたいなものなのだろう。こいつが切れると魔法が使えないから、マナの実を用意しておこう、みたいな話だった。
「マナは、大気中に普遍的に存在する成分の一つです。ガスに火をつけると爆発したりしますよね。それと同じく、あるきっかけを与えることでなんらかの事象を起こします。ただ、一般的な物質と異なるのは、働きかけ方によってさまざまな反応をする、という点です。性質が定まらないという性質から、"霊子"などとも呼ばれます」
「体内マナ、外部マナというのは?」
「はい。人は訓練を積むことによって、体内にマナを留めておくことが可能になります。体内マナとは、どれだけそれを保有できるかの量ですね」
「つまり、その保有量が多いほど魔法を使える回数が多くなる、と」
「まぁ、回数を重視するか威力を重視するかはその人の好みですね」
「では、外部マナとは?」
「魔術や法術は、そもそも体内マナだけで使えるものではありません。肺の中にたくさん空気を貯めておいても、呼吸を止めるのは数分ともたないでしょう? それらの力を存分に使うには、体内のマナをマッチの如く使用して外界に働きかけ、そこに存在するマナに火をつける必要があるのです」
なるほど。だいたいわかった。つまり、体内マナ保有力が高い者は、魔法的な持久力と威力の発揮に高いポテンシャルを持っている可能性がある。体内マナ保有力が少なくても外部マナ反応力が高い者は、燃費が良いということだ。マナの実はマナを豊富に含んでいるとのことだが、一口で全快するとしたらそれも強みになるだろう。
「ありがとうございます。勉強になりました。では、参考までに生徒の成績表も見せていただけますか?」
「どうぞ」
教師の差し出した成績表に目を通す。そこにはAからEの5段階で評価が記載されていた。
分布としてはD、Cあたりがよく目につく。半数以上はこの評価だろう。次いでE評価が多い。B評価はほぼ最高得点といってもよく、1割も目につかない。A評価は5本の指で数えられる程度しかなかった。
「ふーむ……先生。この評価、どの程度とれていればゴブリン10匹を正面から打ち破れると思いますか?」
「そうですね。まず、ゴブリンは力自体はさして強い魔物ではありません。その意味では、1匹相手ならあなたでも斃せなくはないと思いますよ」
「では、10匹では?」
「勝ちパターンはいくつか考えられます」
教師の説明は以下のとおりだった。
①魔術師が、魔術で一網打尽にする。
遠距離攻撃力 :D以上推奨
範囲攻撃力 :B以上推奨
②弓闘士が、中距離から攻撃をかわしつつ倒しきる。
中距離攻撃力 :D以上推奨
物理回避力 :B以上推奨
③戦士が耐えきり、その間に他の者が倒す。
物理防御力 :B以上推奨
――なるほど。各職、役割に特化した能力はB評価以上はほしいところ、ということだ。
ゴブリンはタフな魔物ではないから、攻撃力そのものはD評価程度でも撃破可能という見立てだろう。しかしそれはそのへんにウヨウヨいる雑魚の話。真黒が岩をぶつけて殺したやつなんかは、もう一段上の攻撃が必要そうだ。
「では先生、もしよろしければ我々2人の能力も測ってみていただけませんか」
「えぇ、構いませんよ」
*
グラウンドには、勇者の能力測定を一目見ようと、生徒たちの人だかりができていた。
こんなに注目されてちゃやりづらいな、と苦心しつつ、まずは真黒からトライする。
「それではマクロ殿。そちらに設置された巻藁を、近距離、中距離、遠距離の順でご自由に攻撃なさってください」
真黒はエロインから木剣を借りると、思い切り殴り掛かった。
バァン、と、それなりの衝撃が響く。
結果は、D評価、とのことだった。結局巻藁をどうにかはできなかったのだが、打撃音、体重の乗った一撃ということなどから、衝撃の強さを加味された評価だった。
中距離では、手ごろな大きさの石を思い切り投げつけた。若いころは130km/hを投げたそれなりの剛腕だ。ボゴッ、と、巻藁がへこむ。結果はC評価だった。
遠距離、単体、範囲攻撃力の測定は辞退した。遠距離や範囲攻撃の攻撃手段は持っちゃいない。
次に、防御力を測定する。教師が『どれくらいでいきますか?』と聞いてくるので、『十分手加減して』とオーダーしておく。
教師が腹に一撃を打ち込んでくるので、腹筋を締めて耐える。ドスン、と凄い音が鳴り、真黒は悶絶した。いざとなれば法術で回復可能らしいので、十分手加減と言っておいたのに、下手すれば死にかねないのをもらってしまった。
結果は、D評価、とのことだった。次に魔法防御力を調べる際は、教師が指に炎を灯していたが、大火傷するのが目に見えていたので測定は辞退した。
回避力に関しては、ノックで鍛えた反射神経を生かしてD評価。
体内マナ保有力の検査は当然ながらE評価。何の訓練も受けていないしマナなんぞ意識も持ったことがない。
マナの実は、含有量が十分だと青く光るのだが、十分に栄養を吸収できずに育った実はその光を放たない。この"マナの実を生成する"という試験項目は、体内のマナを一息で実に送り込むことによって、どの程度光を灯すことができるかを確認する項目である。もちろん、真黒がいくら気を踏ん張っても、ウンともスンとも言うことはなかった。
続く外部マナ反応力もやはりE評価であった。こちらは"マナクリスタル"という、グラウンドの真ん中に屹立する大きな結晶であり、マナをぶつけるとその量に応じて青い光を発するということだが、少し離れた場所からえい、とう、といくら腕を振ってもピクリとも反応はしなかった。
最後に、敏捷性、持久力、第六感を検査する。
敏捷性は70
持久力は7
ゼェゼェと息を切らしていると、パタパタとエロインが駆け寄ってきてタオルを差し出した。
「お疲れさまです、マクロさん! あと1種目、第六感測定だけですね!」
「あぁ」
「ふふ……なんだかとっても晴れやかなお顔をされてます」
「そうか?」
汗を拭きながら答える。
――まぁ、こんなに全力で走ったのは学生時代以来、7年振りだしな。いいストレス発散にはなったかもな……心臓が破裂して死にそうだが。
最後の第六感は、E評価だった。何も見えない暗闇の室内で、四方に立つ教師からランダムで石を投げつけられるのだが、どこから何が来るか全くわからず、全て被弾してしまった。
「お疲れさまでした」
エロインは、鼻に石をぶつけられ、鼻血を流していた真黒に治癒を施しながら言う。
「まったく、散々だったよ。まっ、一般人の俺の力はこんなもんだ。それじゃ、勇者よ。お前の力を見せてもらおうか」
「はい!」
*
退屈そうにしていた生徒たちが、にわかに色めき立った。いよいよ勇者の登場だ。
まずは近接攻撃力。
木剣を静かに構えるエロイン。緊張感が高まり、一同が静まり返る。
「ハァッ!」
次の瞬間、エロインは澄み渡るような掛け声をあげ、巻藁を叩き斬った。
沸き立つ生徒たち。
――さすがだな。
正確には斬った、というより折った、なのだが、いずれにしても大したものだ。真黒が打ってもビクともしなかった巻藁が、ぐにゃりとへこんで折れ曲がり、使い物にならなくなっている。確かに、あんな一撃をもらえばゴブリンの頭なんぞペシャンコだろう。
続いて、中距離攻撃。剣は届かないため、ブツブツと詠唱を始める。
「女神よ――力を!」
10数秒も経ってようやく、エロインは天に手を広げた。
その手の先がカッと光り、雷光と見紛うような光の矢が20
再び生徒が大きく沸き立った。中距離攻撃力も文句なしのA評価だ。
最後に、遠距離攻撃。こちらも先ほどと同じ光の矢だ。矢は70
単体攻撃力は木剣による近接攻撃と光の矢による攻撃を総合してA評価とし、省略。
範囲攻撃力はエロインの周囲10《エタップ》四方に巻藁を設置して確かめる。
地面に手を添え、またブツブツと詠唱を始めると、やはり10数秒後に少女の手の先が光った。
次の瞬間、バンッ、と、周囲に設置された巻藁10個がはじけ飛ぶ。これもA評価。
――はて。今の攻撃、どこかで見たような?
――って、城で俺たちをすっころばせたアレじゃねーか!
しかし、あのブツブツいう詠唱は縮められないのだろうか。戦場であんなふうに10秒以上も静止していたら格好の的だ。
――だから、こないだは洞窟から逃げてきたのか。仲間さえ万全であったなら、あるいは彼女のこの術で、ゴブリンをバッタバッタと薙ぎ倒せたかもしれない。
その疑問を、防御力の測定に移る前の準備中にぶつけてみると、エロインの回答は次のとおりだった。
「うーん……私が使用する、勇者だけが使える"聖術"は、マナに力を伝えることさえできれば発動できる魔術や法術とは性質が異なります。これは女神様に力をお借りするものなので、その性質上、手続きを縮めることはできなくて……」
なんというお役所仕事か。融通が利かない。いざというときに役に立たなさそうだ。
そうしているうちに、物理防御力の測定が始まる。教師が進み出て、真黒に対するのとは明らかに違う気合を込める。
本気の一撃が年端もいかぬ少女の腹部に叩き込まれた。思わず目を瞑ってしまう真黒。
――が。
フシュー、と、少女の口から吐息が漏れる。
エロインはびくともしていなかった。まさかの、防御力もA評価である。
続いて魔法防御力。エロインが聖術を発動するのを待って教師が魔術を発動し、大きな火の玉をぶつける。火の玉は彼女が作り出した障壁に阻まれ、霧散した。これもA評価だ。
回避力も見事なものだった。体が柔らかいのもあるのだろう。まるで蛇が獲物に巻き付くように、すんでのところでぐにゃりぐにゃりと体を曲げ、するりするりと教師の攻撃を躱しA評価。まるで曲芸だ。
体内マナ保有力と外部マナ反応力も抜群だった。エロインが少し力を籠めると、マナの実は一瞬で青く光り輝く。遠距離からマナクリスタルに光の矢をぶつけると、数
70
*
生徒たちから握手を求められ、助言を求められ、もみくちゃにされた後、ようやく解放されたエロインは、グラウンドの端に座って休憩している真黒のもとへパタパタと駆け寄ってきた。
「お疲れさん。さすが勇者だな。想像以上だったぞ」
「は……はい! ありがとうございます!」
頭を差し出してくる。今度は文句なしだ。その頭を撫でてやると、まるで尻尾が揺れるのが見えるようだった。
普通の人間がどんなもんか、勇者を目指す学園の生徒がどんなもんか、本物の勇者がどんなもんかがだいたいわかった。これは大収穫だ。
仲間たちに求める水準は見えてきた。勇者には及ばないまでも、それに近い水準の能力がいくつかあれば御の字だろう。もし勇者を超えるものが1つでもあるなら即採用といっていい。
「さて、昼からは応募者の選考に移る。応募者に昼一番にこのグラウンドに来るよう伝えたらお前は昼休憩をとっておけ」
「ハイ! マクロさんは?」
「俺は教会で少し話をしてから戻ってくる」
募集は順調そうだが、問題は資金調達。採用しておいて日当が払えない事態は避けたい。早めに手を打たなければ。
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