四十三話『発狂』


機械兵科。

闇が絶えないその科に、ノックもせずに入ってみたところ。


棚が視界を遮る。

鉄臭い。


そして暗い。

液晶の局所的な光しか、部屋を照らしていなかった。


窓は黒いカーテンで全て締め切られ、隙間風が入る余地も無い。

その先はただただ暗く、陰気なだけであった。


「うわっ」


私とリアルはそれを見て、不意に引いてしまった。

ここまで暗い部屋を、他に見た事が有るだろうか。


無い。

汚い部屋ならごまんと見てきたが……これは───。


「お、お邪魔しまーす」


少し怪訝にしながら。

機械兵科内を探索していく。


中は意外に広かった。

昔の名残でも残っているのか。


「昔から、こんな風だったんですか……?」

「いや。……相変わらず汚いけど、ここまでじゃ無かった」


そう言った直後、リアルが怯え始める。

……キーボードを能動的に叩く音が、聞こえ始めたからでしょう。


「居ますね」

「シール。……気を付けてね」

「分かってますよ」


そう何度も言わせないで。

兎に角。


その音は、窓際のカーテン近くから聞こえて来ていた。

ふむ。……都合良いですね。


人の背中が見えた。

暗がりだろうが、その背は丸く、異常に猫背だったのが分かった。


それを見て、私は足音を消して近付いた。

リアルも一緒に。


──────黒カーテンを巻き上げ、光明と共に話かけた。


「こんにちは、ユリス」


と。

その瞬間、天を突く様な発狂が轟いた。


「う、ううううっわぁ!なななななななななななななんだよっっっ!!!!」

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