第十五話『家族』

「どこに行くつもりだ?エクセル第一王子?」


 突然掛けられた声に、身体を固まらせる。

 怪訝な顔付きと目。


 まるで一触即発、の様な雰囲気。

 ……だと言うのに。


「あ!エクセルさん不審者扱いされてますね!」


 レネは高揚したのか、切羽詰まっていると言うのに……未だにうるさい。

 彼女の声は聴こえていない様だが、全く。


「レネ、黙っておいて」

「はぁーーーーーーい……」


 レネを迅速に黙らせた所で。

 頭領殿に警戒される前に、目的を提示しておく事にする。


「リベンさん。貴方がやれと言った依頼を遂行しに、ですが」


 私がそう言うと、リベンは更に睨みを効かせてきた。


「あたしの名前……何処で知った?」


 確かに不用意に言ってしまっていたか。

 流石に嘘を吐く意味もないので、答えておくとしましょう。


「……あれだけ大きい声で話されると、知らずに聴こえて来るモノです」

「ふぅーん。そうか───」


 疑いをかける様な目で、彼女は私を見詰めた。

 だが数秒経った後に、溜息を吐いて目を逸らした。


「ならまぁ、良いさ。───けどな」

「……なんでしょうか」


 再び灯ったリベンの威光には、覚悟も入り混じっていた。

 私を、敵や余所者と見るような目付きをしている。


「ここに住む奴らは全員、国から存在を否定されて、逃げて来るしかなかった奴らだ。

 約一年前、そんな奴らをかき集めてあたしがここを作った。

 ここの奴らはあたしにとっての家族だ。

 エクセル。お前の事情がどうであれ、家族の安寧の暮らしに波風立てるようなら……」


 彼女は月を背後に、私を睨みつけてきた。

 ……言いたいことは察している。


「───大丈夫です。シエル民としての仁義は守りますよ」

「そ。……じゃあ勝手に行け」

「ありがとうございます」


 深めに会釈してから、私は歩き出す。

 しかし、まぁ───。


 彼女からの、あの私に似た瞳は……忘れられなくなりましたね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る