第2話 魔剣士集団
史跡から近いシピアの町へと戻った二人は、大衆食堂の一席で温かい料理を囲んでいた。雪原で裸体を晒し、体の芯まで冷え切っていたベニオは熱々のシチューを三杯も平らげてしまった。元々食欲旺盛らしく、追加で厚切りステーキを二皿注文。外見からは想像つかぬ食欲っぷりに、普段は感情を表に出すことの少ないダミアンが苦笑を浮かべていた。
「お前はどこで妖刀を手にした?」
食事を終えたタイミングでダミアンが静かに切り出した。ステーキを平らげ満足気にお腹を擦っていたベニオの表情が
「我が愛刀、
「なぜ現代に至るまで一族は妖刀を保管していた? 朽ちぬ妖刀を破壊することは難しくとも、手放すことは出来ただろう」
「剣士の
これまでの情報を統合すれば、ベニオとベニオの一族に何が起こったのかは容易に想像がつく。何もかもが、かつてのダミアンの経験と重なる。
「妖刀の狂気に引かれ、魔剣士の一団が村へとやって来たのか」
「流石は魔剣士狩り様。事情にお詳しいですね」
「……私が初めて出会った魔剣士も、同じような行動を取っていたからな」
ダミアンに魔剣士狩りの狂気を植え付けるきっかけとなったあの男。あれもまた、所蔵された妖刀の生み出した悲劇だったといえる。
「全てがあまりにも突然の出来事でした。村が襲撃を受けたかと思えば次の瞬間には見知った者達の断末魔の次々と木霊した。我が一族を始め、多くの剣士が果敢に迎撃を試みましたが、複数の魔剣士を有する一団相手ではあまりにも分が悪く、多くの仲間が倒れていきました……」
当時の己の無力さを恥じるように、ベニオはアオザイの袖を力一杯握りしめた。
「敵が魔剣士であると知り、我が兄イシオは一族の禁を犯すことを決意しました。後に狂気に飲まれることを覚悟の上で、自衛のために『宵ノ早贄』を抜いたのです」
「最初に妖刀の使い手となったのは、お前の兄だったということか」
ベニオは無言で頷き、亡き兄の形見でもある妖刀「宵ノ速贄」の鞘を指先でなぞった。
「兄上は村一番の使い手と称された剣豪です。魔剣を手にした兄上はまさに鬼神の如き奮戦ぶりでした。敵陣の魔剣士も複数名切り伏せ、形成は逆転したかに思えましたが……突然、最前線に
ベニオは
「戦況を見かねた
魔剣士を配下に持つ程の使い手ならば、相応に熟練した危険人物とみて間違いない。
純粋な
「そのような状況下で、お前はどうやって兄から妖刀を引き継いだ? 襲撃者の狙いはその妖刀だったのだろう?」
「手前はその時、斬り飛ばされた兄上の直ぐ近くにいたのです。妖刀が生命力を活性化させていたのか、兄上の執念の成せたことか。上半身だけになっても兄上にはまだ息がありました。今わの際に手前へ宵ノ速贄を託し、息絶えました……直ぐにでも兄上の仇に斬りかかりたい衝動に駆られましたが、手前では兄上を殺した相手に敵う天望はありません。復讐を誓い、断腸の思いでその場を退く決断をしました……村の仲間達も手前の撤退に協力してくれましたが、魔剣士たちの猛追を受け、一人また一人と命を落としていった。最後の衝突で僅かな生き残りも散り散りとなってしまい、以降は一人で四年間、復讐の機会を伺っておりました」
散り散りとなってしまった仲間達の行方は終ぞ判明しなかった。再会を果たすことは難しいだろうが、せめて世界のどこかで無事でいてほしいと、ベニオは一人一人の顔を思い起こす。
「お前の村を襲ったという、魔剣士の長は何者だ?」
慰めの言葉をかけるような真似はせず、ダミアンは淡々と自身が必要とする情報を求める。最終的には殺す相手だ。優しくする理由など何も無い。
「……彼奴の名はヂェモン。身の丈を超す、
「ヂェモンという名に一人だけ心当たりがあるがもしや?」
「想像通りの人物で間違いないと思います。北部のリドニーク領領主ドゥラーク
二年前。
その後、領主は武装集団ヴィルシーナを騎士団に代わる新たな自治戦力として任命するも。実情、力関係ではヴィルシーナ団長のヂェモンの方が上であり、現在のリドニーク領は
極悪非道なヴィルシーナは一般市民に対する虐殺も
リドニーク領内の動乱については時世の話題としてダミアンも把握していたが、魔剣の噂も無く、世間一般にも単なる政治的な動乱と見なさられていたので、魔剣士集団の介入があったことまでは見抜けなかった。事実だとすれば、魔剣士狩りにとってこれ以上ない最高の狩場だ。
「全てを計算した上で、自身を餌に私をこの地へとおびき寄せたな?」
「……
ダミアンは旅の最中に立ち寄った貿易港で妖刀使いの美女の噂を耳にし、遥か北の大地にまで足を運び、実際に雪深い史跡で野盗を切り伏せるベニオと出会った。そのベニオこそが噂を残した張本人だったのだろう。
現在地のシピアの町からリドニーク領までは、天候にもよるが三日も歩けば辿り着ける距離。出会ってしまった時点で、ダミアンはベニオの術中にはまっていたというわけだ。ダミアンが共闘に乗ってくれるか否かは彼女にとっても賭けだったろうが、こうして共闘する運びとなった以上、彼女は賭けにも勝ったというわけだ。
「怒っていますか?」
不敵な笑みを浮かべるダミアンの顔を覗き込むようにしてベニオが伺いを立てるが、
「多くの魔剣士を狩れる機会を得られるんだ。嬉しくて仕方がない」
魔剣士は例外なく魔剣の狂気に魅入られる。ダミアンに関しては他の魔剣士と比べて特殊で、一般人に危害を加えるような真似はしないが、代わりに魔剣士を狩る際には狂気が表層へと滲みだす。
「ヂェモン以外に、ヴィルシーナにはどれぐらい魔剣士が所属している?」
「手前が把握しているのはヂェモンを含めて四名。ただし、四年前の襲撃に全ての魔剣士が参加していたとは限りませんし、戦力を拡大していく中で、新たな魔剣士が所属した可能性も考えられます」
「多ければ多い方が好都合だ。魔剣士は私が全て狩り尽す」
「素敵。それでこそ魔剣士狩り様でございます」
恐れを感じるどころか、魔剣士の巣窟たる死地へと嬉々として乗り込もうとする。噂に名高い魔剣士狩りを頼って本当に良かったと、ベニオは自身の決断が正しかったことを確信した。
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