猫
ザーっとシャワーを浴びる。1日今日はいろんな事があったな。まずはハイテク研究施設、現代の技術ではあり得ないような仕様。それから獣人の女の子たちにベアラス、魔獣という存在。
美菜さんと奏多さんに会ってと1日濃かった。
明日はどんな驚きがあるのだろうか恐怖心よりも探究心の方が出てきている。
だって一気に獣人とかファンタジーの世界だぜ。割とそういうのは好きだ。
はあ、と一つため息をついて湯船に浸かる。
「ガリガリガリガリ」
ガラス扉にはラトの形が見える。
「ラトー! お前も入りたいのか?」
少し扉を開けてやればナーオーとしっぽを上げて、こちらへ入ってくる。
「ラトもシャワー浴びるか?」
少し足元だけでも洗ってやろうと蛇口をひねれば、ラトは後ろにジャンプして逃げる。
すると、急にラトが身震いして、大きさが変わった。
「ご主人様はバカなのですかにゃー? 猫は水は苦手ですにゃー」
俺が驚いて口をパクパクとさせているとラトは蛇口を閉め、俺の元へと擦り寄ってくる。
そう、閉めたのだ。ラトは微笑む1人の20歳くらいの耳と尻尾のついた女性へと変化していた。
「ご主人様大丈夫ですかにゃ。口パクパクですにゃ」
本当に驚くと声が出なくなるとはこの事かと思った。
「……ラトなんだな? とりあえず服着ようか」
「えー」
「えーじゃない」
俺は混乱しながらも紳士的な対応をする事にした。
「それでこれはあれだよな。ラトが獣人だったって事だよな」
俺は嫌がるラトに無理矢理俺のスウェットを着せ。ちゃぶ台を前に正座している。
ラトは呑気に耳の毛繕いを始めている。
「そうにゃー。ラトは偉い偉い獣人にゃ。ほかの猫と一緒にするにゃよ」
「俺まだこの島の生態系に詳しくないんだけど、ラトは偉い方なのか?」
ラトは偉いという言葉に反応するとそれはそれはもうご機嫌といった表情をした。
「そりゃそうにゃー。ラトにはラトっていう名前のある名付きになったんだから」
「名付き?」
「ご主人様は本当に何も知らないにゃ。名付きは偉いにゃ。この島に住む獣人の中でも名前をつけてもらえるのはごく一部の獣人だけにゃ」
うんと首を唸る。名付きってなんだ。俺が適当にラトって呼び始めたが、それが原因か。
「本来ラトには名前があったのか? それとも俺がつけた名前が原因か? そしてご主人様呼びはやめろ。海斗でいい」
「ラトはラトにゃ。ご主人様はご主人様にゃ。でもま、海斗がいいなら海斗でいいにゃ」
話がいまいち分からんが明日江角さんに相談してみよう。とりあえずご主人様呼びは心臓に悪いからな、よかった。
俺はとりあえずビールを一杯飲みラトから聞き出すのは諦め寝る事にした。
だが、問題があった。
「ラトも海斗寝るにゃー」
「だから一緒の布団で寝る必要はないだろ? もう一式あるんだから」
「嫌にゃ。昨日は一緒に寝たにゃ」
ラトがどうしても一緒に寝たいというのだ。俺の布団を持って離さない。先程あられも無い姿を見てしまっている身としては、一緒に眠るのはまずい気がする。
そうこう脳内会議中にもラトは身を擦り寄せ迫ってくる。
「海斗〜、ダメかにゃ。寂しいにゃ。ぬくぬくしたいにゃ」
「あー、もう……はい」
脳内会議終了。演算装置が落ちました。いや、落ちてない思い付いた。
「自由に人間や猫の姿になれるのか?」
「にゃ。当然にゃ。ラトは偉いにゃ」
ラトは尻尾をくねくねとさせ、胸を張る。いい事を聞いたその手があった。
「ラトの猫の姿がみたいなー。猫の姿なら撫で撫でしてあげれるなー」
ピコンとラトの耳が立つ。
「撫で撫でにゃー?」
「そう、撫で撫で」
少し思案顔のラトだったが、俺に抱きつくと上目遣いに顔を覗き込んでくる。
「いっぱいしてくれるかにゃ?」
「あー、頭でも喉でもどこでも撫でてやろう」
「にゃん」
ラトが落ちた瞬間だった。すぐに猫の姿に戻ると俺の足に擦り寄ってくる。
「約束にゃー。海斗。喉のとこ撫でてにゃー」
「分かった。分かった。いっぱい撫でてやるからな」
ラトが眠りに着くまで撫でまくったのであった。正直人間の姿の時は緊張していた。何せ俺には女性に対する免疫がないからな、獣人と分かっていても、出るとこ出ているラトの姿には反応しないわけがなかった。
「おやすみ。ラト」
これからはなるべく猫の姿でいてもらおうと心に決めて眠りについた。
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