第36話 疑惑 友を信じたい

 城へ戻ったレナを待っていたのは、全員からの盛大なる御説教だった。

 全ての御説教を、甘んじて受け入れた。

「人に心配かけちゃ、いけないんだからな!」

 ムートル国では、脱走常習犯だったドミニク王子から、そう言われた時だけは流石に閉口した。



「大切な話があるんだ」

 脱走騒動から数日後、父アンドレに執務室へ呼ばれた。

 執務室には、ジャメルと怪我が癒えたエリザも居た。

「レナ、エヴァは元気だったかい?」

「はい、素敵なお店を任されて、元気にしてました。あの、お父様、あの日は勝手に城を抜け出したりなんかして、ごめんなさい。私どうしてもエヴァのカフェに行きたくて……」

「いや、別に怒っているわけではないよ。心配はしたけれどね」

 アンドレが、優しくレナに微笑んだ。

「本当に、ごめんなさい」

「姫君は、どうしてエヴァがカフェを始めた事を知ったのですかな?」

 ジャメルが、単刀直入に聞いてきた。

 一度ならず二度までも、ギードに巻かれたジャメルはとてつもなく不機嫌だ。

「それは……」



 レナは誰が手紙を机に置いたのか察しはついてたが、あの日エヴァに確認していた。

「ねぇ、エヴァ。もしかして、城の使用人に知り合いでもいるの?」

「手紙の事ね。実はね、訓練校で友達になったカーラって子がお城でメイドをしているの」

「やっぱり、そうだったんだ」

 レナの予想通りだった。

「もしかして、カーラが叱られちゃう?」

「大丈夫、絶対に誰にも言わないわ」

「ありがとう、手紙城に送って本当にレナに届くのか心配で……」

「カーラのお陰でこうしてエヴァに会えたんだから、迷惑はかからないようにするわ」



 エヴァとの約束だ。

 カーラの名を出すわけにはいかない。

「メイドのカーラですか?」

 エリザの口から、カーラの名が出て思わずカップを落としそうになった。

「いくら心を読まれないようにしても、それでは丸わかりですよ、レナ様」

 エリザが思わず吹き出した。

「お願い、カーラには迷惑がかかるような事にはしないで!」

「いくら友達の頼みとは言え、メイドとしてどうかと思いますが」

「いくら姫君が隠そうとしても、カーラの心は丸見えですからな」

「だめよ! カーラには何もしないで!」

 レナは思わず立ち上がった。

 エヴァの新しい友人カーラに対して嫉妬心がないわけではない。

 しかし、エヴァとの約束を破るわけにはいかない。

「大丈夫です、カーラが咎められる事はないですよ」

 エリザに座るよう即されたレナは、ほっとして座った。

 これでエヴァとの約束が守れる。

「姫君、エヴァの店とはどのような店だったのですか」

 ジャメルがエヴァの店を気にするなんて、何かあるのかしら。

 レナはジャメルの質問を不審に思った。

「どんなって、普通のカフェよ」

「普通とは?」

「そんなに気になるなら、ジャメル、貴方が自分で行って見ればいいでしょ」

 ジャメルの執拗な質問にレナは少し苛立ちを覚えた。

「レナ、もしかするとレナの友達エヴァは地下組織の一員なのかもしれない」

 アンドレの言葉に耳を疑った。

「地下組織? それは、どう言う事なの……」

 エヴァが地下組織?

 確かに、地下組織なるものが存在し国の転覆を企てている、そんな噂は以前耳にした事があったが……。

「地下組織の拠点となっている店に、エヴァが入り浸っているのを確認したんです」

 何故かエリザが申し訳なさそうに言った。

「でも、あのお店は、本当に普通のカフェよ。お酒すらメニューにはないもの」

 エヴァが、そんな組織と係わりを持つわけがない。

「可能性は二つ。エヴァが自ら組織に加わったか、騙されているか」



 自室に戻ったレナは、カフェで再会したエヴァの笑顔が思い出されて仕方が無かった。

 あのエヴァが地下組織の一員?

 そんな訳はない。

 間違いなく騙されているのだ。



「集中力に欠けてます、姫君」

 もうかれこれ一時間以上ジャメルからの攻撃をかわす訓練をしているが、そろそろレナの集中力の限界だった。

「無理よ、私には」

「そんな事を言っている場合ではないでしょう」

 やっとジャメルの攻撃の手が止まった。

 床には、布球が大量に転がっている。

「ねぇジャメル」

 レナは思い切ってジャメルに相談する事にした。

「何でしょう」

「私、エヴァの事助けたい」

「助ける、とは?」

「エヴァは絶対に騙されてるのよ。もしギードの地下組織に係わっているとすれば、助けられるのは私しか居ないでしょ?」

「あやつの作った異空間を一人で破ることすら出来なかったのに、どうやって助けると言うのです」

 それは、ジャメル自身にも言える事だった。

「それに」

 ジャメルは続けた。

「それに、自らの意思で係わっている可能性も否定はできない」

 レナは思わずジャメルに布球をぶつけ様としたが、感情が高ぶり上手くコントロールできず、あらぬ方向へ飛んでいってしまった。

「その程度の魔力では、とうていあやつには勝てない」



 もう一度だけ、もう一度エヴァに確認するだけ。

 レナは起こしてはいけない行動を、起こしてしまった。



 カーラは、エヴァからレナが会いに来た事を知らされた時、天にも上る気持ちだった。

 私の置いた手紙をレナ姫様がお読みになった。

「あなたがカーラ?」

 突然後ろから声を掛けられて、カーラは飛び上がって驚いた。

「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかったのよ」

 振り返ると、そこには憧れのレナが立っていた。

「レナ姫様!!!!」

「手紙ありがとう、エヴァから聞いたわ」

「いえ、そんな……」

 いざレナを目の前にすると、どう接して良いか分からないカーラは泣きそうになった。

「今日は、何時に終わるの?」

「え?」

「お茶でも一緒にどうかと思って」



 エリザには、古城のルイーズとベルの元へ薬草を取りに行って貰った。

 ジャメルとアンドレは、今日は遅くまで会議の予定。

 ドミニク王子は、来たところで問題はない。

 レナは、仕事を終えたカーラが、やって来るのを部屋で待った。

 コンコン

 カーラだ。

 ドミニク王子は、ノックもなしに入ってくるから、間違いない。

「カーラね、どうぞ」

「失礼します……」

「来てくれて、ありがとう。城の中に友達が出来て嬉しいわ」

 友達、と言われカーラは舞い上がった。



「ありがとうカーラ、今日は楽しかった」

 レナお手製のお菓子までお土産に貰って、カーラはご機嫌で城の自分の部屋に戻った。

 ただ、話した内容を何も覚えていない事には気が付かなかった。

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