第29話 宗一郎の誘い(3)

 駅まで続く道を宗一郎と並んで歩く。引き上げるにはまだ早い時間なので、行き交う人で通りは賑わっている。いつの間にかすっかり定着したハロウィーンに因んだデコレーションやのぼりが各所にあって、これを見ると秋が来たな、という気分になるようになっている自分に気づく。もうすぐ十一月で、秋が終わればすぐに冬が来る。

 冬が来ると、花と出会った頃を思い出す。あれから十年だ。

「そういえば」と八尋は前を向いたまま宗一郎に声をかける。

「ちゃんと答えてなかったなって、思い出した」

「ん?」

「昨日の話」

 宗一郎は「ああ」と短く応じた。どこか興味がないようにも聞こえる調子の返事だったが、やがてぷっと吹き出して「この雰囲気じゃ、聞かなくてもわかっちゃうよ」と笑った。

「わかっちゃうか」

 八尋もつられて笑う。

「バレバレ。なんか、頑張って告白してくれた男の子を、傷つけるのは申し訳ないと思いつつ意を決して断る覚悟をした女の子っぽかった」

「なんだよそれ」

 噴き出してしまう八尋。

「フラれるという点では同じだろ?」と笑みを浮かべる宗一郎に、八尋は複雑な思いを抱く。

「ごめん」

「謝るなって。本当に俺が告ったみたいじゃんか」

 くすくす笑う宗一郎は、ひたすらに「気にするな」と言ってくれた。

「まあ、そう言われても八尋は気にしちゃうやつだって、俺もわかってるけどな。おまえがそういうやつだからこそ、俺はおまえと一緒に行きたいと思ったんだ」

 宗一郎の率直な評価が八尋は嬉しかった。

「理由だけ、聞いていいか。……ゴメンちょっと待って。マジで告ってフラれたみたいな会話ばっかしてて笑える」

 宗一郎は口元を手で覆い肩を震わせている。それからぱっと八尋を見て、手を振りながら「いやでも、知りたいのは本当だ。信じてくれ」と弁解した。その様子が可笑しくて八尋も笑ってしまう。さっきから笑ってばかりだ。

 そう。宗一郎といると愉快だった。彼と一緒に行けばきっと楽しいだろうと八尋も思う。そうすれば、無気力な止まり木の職員たちに悩まされることや自分の無力さを思い知らされることもなくなるのかもしれない。

 それでも。

「俺は、俺を拾ってくれた花のそばにいたいんだ」

 それだけが、八尋が止まり木に留まっている理由だった。

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