舞妓さんみたいになれれば
当日、ヴァランティーヌと明子さんは、リュックに引っ越しでもするのという位、荷物を詰め込んで、この駅を始発とする新幹線に乗り込みました。
勿論グリーンじゃないですよ、指定席の二人掛けの方に並んで座り、ペチャクチャとおしゃべりです。
ヴァランティーヌさんが、
「この後、祇園新橋散歩、宮川町歌舞練場、お茶屋で舞妓さんとランチ、楽しみね、舞妓さん、綺麗でしょうね……」
そしてあっという間に京都駅へ着きました。
「皆さん、急いでください、バスが待っていますよ」
引率教師がせかしますので、皆走りますが、明子さん、荷物が重過ぎて、息を切らせています。
祇園新橋に案内され、白川沿いの街並みを歩いて、当然お土産を買っています。
「ちりめん山椒があった、これを買わなくてはね♪」
明子さん、やはり惣菜系は詳しいようです。
「感じがいい街ね、石畳の道がいい……建物は違うけど、私の街に似ている……」
ヴァランティーヌさんが呟くのを、明子さんは黙って聞いていました。
引率教師がついていますので、迂闊なことはしゃべれない、そこは明子さん、理解しているのです。
明子さんが、ヴァランティーヌさんの手を取りました。
「お友達っていいわ、いつまでもお友達でいてね……」
「勿論よ、誓うわ!」と明子さん。
明子さんと繋いだ手に、ヴァランティーヌさんが力を込めますと、明子さんも返しました。
そして耳元で本当に小さい声で、明子さんは、
「お姉ちゃんはお友達と一緒に、美子様にご奉仕」
「お母さんは乙女ちゃんのママと一緒に、美子様にご奉仕」
「私はヴァランちゃんと一緒に、美子様にご奉仕する」
「ありがとう、いつも一緒ね♪」とヴァランティーヌさん。
「いつも一緒よ♪」と明子さん。
三十分の祇園新橋散歩が過ぎ、宮川町歌舞練場を特別見学、本来はイベントの時だけなのですが、どうやら特別に見せてもらえるようです。
そもそもこんな場所を、女学校のそれも付属女子小学校の生徒が、うろうろするところではありません。
修学旅行というのももってのほか、それでも実現したのはアジア大司教区政府のはからいがあったのです。
まぁごますりと言えばいいのでしょうが、この日のこの界隈は、夕刻まで異様に警官が歩いています。
そして私服警官も大量に投入されています。
誰かの意向でしょうが、ヴァランティーヌさんたちには関係のないことではあります。
でも今日のメインイベントは、『お茶屋で舞妓さんとランチ』です。
引率教師を含め、全員で五十名ですので、宮川町の幾つかお茶屋に分散します。
こんなことは前代未聞ですが、何事もなく実行されています。
ヴァランティーヌさんと明子さんの班も、他の幾つかの班とともにお茶屋さんへ、舞妓さんが待っていてくれます。
憧れの舞妓さんを目の前に見て、生徒さんたちは舞い上がっています。
ヴァランティーヌさん、えらく熱心に舞妓さんの立ち振る舞いを観察しています、それこそ穴のあくほどに。
明子さが小さい声で、「どうしたの?」と聞きますと、ヴァランティーヌさんは、
「美子様、舞妓さんはお好きかしら、と考えていたの」
?
「私は愛されているけど、明子ちゃんはまだでしょう?」
「いつも一緒にいたいから、明子ちゃんも一緒がいいと思って……」
「明子ちゃん、舞妓さんみたいになれれば、美子様も振り向くのでは……明子ちゃん綺麗だから、もう少しだけ工夫すれば、ばっちりと思うの」
明子さんが、
「でもお母さんもお姉ちゃんも、この間、愛されたのだから……」
ヴァランティーヌさんは、
「あのね、美子様は生理前の子は避けられるのよ、明子ちゃんまだでしょう?京子お姉さんは早かった?」
「遅かったのではないかしら、十四と聞いたけど……」と明子さん。
ヴァランティーヌさんは、
「明子ちゃんも遅かったら、同じになれないじゃないの、明子ちゃんには、早く側女になって欲しいの」
「ヴァランちゃんは?」と明子さん。
ヴァランティーヌさんは、
「私は早かったの、九歳の時、私の生まれたところは、大体早いの」
「……」
「心配しなくてもいいわ、生理前に抱かれた人がいないわけではないのよ、ぺピさんなんて有名よ、色気があればOKよ!」
つまり明子さんが美子さんをムラッとさせて、側女になって、自分と一緒に夜に侍る。
ヴァランティーヌさん、結構考えています。
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