稲田先生奮闘中
逃げる体制だった茜さんの手を、ぐっと握った真白さんでした。
「美子を置いていくから!」と茜さん。
「ひどい!」と美子さん。
「二人で働いて下さい!」と真白さん。
諦めたような顔をした二人でした。
美子さんが、
「何をすればいいの?」
と聞きました。
真白さんは、
「グラウンドの下にプールをお願いします、茜様は寄宿舎の五階の改修を、五階には作業員は入っていません、紛らわしいので閉鎖しているはずです」
二人が肩をすくめながら、歩いて行きました。
「すごいですね、あのお二人を叱るなんて……しかもタダ働きでしょう、尊敬します」と静香さん。
真白さんは、
「冷や汗ものですよ、でも今が正念場、お二人も分かってくださったのでしょう」
静香さん、結構笑いました。
「とにかくこの二人を部屋に案内してくるわ、せっかくだから隣合わせがいいでしょう」
真白さん、二人を部屋へ案内しています。
「稲田先生、お聞きしてもいいですか?」と真理亜さん。
真白さんが、
「あのお二人の事は忘れなさい、それ以外のことなら答えましょう」
「……」
「二人とも良く聞きなさい、西田真理亜、貴女は必ず女神様にお仕えしなさい」
「自分でも分かっているでしょう?そのリングがなければ、また同じことになります」
「それから益子和子、貴女も西田真理亜ほどではないけど、何が何でも卒業しなさい、それしか生きる道はないのよ」
「幼い貴女たちに言うのは気が引けるけど、二人とも賢いですからね、この学校はそこらのお嬢様学校ではありません」
「最初の一年で何人かは、ホームシックで脱落すると思われますが、貴女たちは歯を食いしばっても耐えてね、期待していますからね」
「はい」と二人。
真白さんが、
「夏休みはありませんが、それでも一週間ぐらいはあります、それまでには、本格的に女神様の世界が垣間見えてきます」
「その時に、あのお二人の事も分かるでしょう、この話、しゃべってはいけませんよ」
……もっともリングをした以上、秘密保持の力が働きますがね……
「分かりました、ありがとうございます」と二人。
真白さんが、
「ここよ、制服や下着、靴などの支給品が置いてあるはず、シャワーも動くでしょうから、さっぱりして、身じまいしてから先ほどのロビーに降りてきなさい」
……この二人なら一人でも間違いないでしょう。
明らかに世の中を知っている、そんな口ぶりですものね……
真白さんが一階に降りると、まず茜さんが戻って来ていました。
「やれやれ、稲田さんにはこき使われるわ」と茜さん。
「申し訳ありません、でも非常事態ですから……」と真白さん。
茜さん、何事もない顔をしながら、
「次はなに?」
すると真白さんは、
「そうですね、今日の午後から教員さんの面接が有るので、明日に色々お願いしたいのですが……」
「かなり厄介そうな事ですかね」と茜さん。
黙ってしまった真白さんを見て、小さくため息をついた茜さんでした。
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