クリームヒルト・ニーチェさんは思わぬ幸運に小躍りしていました。

　憧れの主、ミコ様と一年間、一緒に過ごせるというのです。

　しかも姉とも母とも慕う、イシス様と一緒なのです。

　『最後の審判戦争』が終わり、なんでもテラとそっくりの世界、蓬莱という惑星が見つかったとかで、ミコ様とイシス様のお二人が視察、というより、その世界で休養を取られるというのです。

　直接の上司というより、うっかりするとミコ様やイシス様より偉いハウスキーパーのサリー様が、クリームヒルトさんをお供にすることで、お二人の一年間の休養を承諾したのです。

　しかもクリームヒルトさんは、側女としては珍しく佳人待遇となり、佳人以上に説明される主たち、アスラ族の世界を説明されています。

　お二人ともお名前やお年を、多少は滞在先の状況に合わされるとか。

　ミコ様は吉川美子、イシス様は吉川茜、お年もお身体も、女学生になられます。

　惑星テラのパラグアイ、新ゲルマニアの出身でもあるクリームヒルト・ニーチェさんは、金髪碧眼、典型的なドイツ美少女です。

　しかも超人（ユーベルメンシュ）――アドルフ・ヒットラーの夢見た新人類――であるクリームヒルトさんは、生まれた村で両親が死ぬと、村人に捕まり太陽を望遠鏡で無理やり見せられ、目を潰された過去をもっています。

　その時、右目は失明、左はつぶれた振りをして、何とか失明を免れたが弱視になってしまいました。

　その後、村から必死で逃げだして、物乞いをしながらパラグアイの首都アスンシオンにたどり着いのです。

　そして当時テラの世界的企業、裏から世界を支配すると目されていた、ナーキッドのオーナー、吉川ミコの事を知り、この人なら超人（ユーベルメンシュ）の自分を受け入れてくれると探し求めて、そしてすがりついたのです。

　クリームヒルトさんは、その時の出来事を鮮明に覚えています。

　……みすぼらしい身なりで垢まみれの私を、ミコ様は黙って抱きしめてくれた……

　……ホテルの部屋でお風呂に入れといわれた時、傷だらけ膿だらけの身体を見せると、ミコ様に嫌われ捨てられる……

　再び居場所がなくなると思った時の恐怖……

　でも杞憂に過ぎなかったのです。

　……ミコ様はそのたぐい稀なるお力で、私の目と身体の傷を簡単に直してくれた、その時のうれしさ……

　そしておやつを頂き、お風呂に入り、ミコ様が自ら垢まみれの私を洗ってくれた……

　以来、クリームヒルトさんは、吉川ミコ様を主と認識しています。

　イシス様との出会いは厳しいものでしたが、意外にもクリームヒルトさんを可愛がってくれています。

　そしてイシス様の口添えで、クリームヒルトさんは側女という位を授かったのです。

　そして女の印が来て、ある夜、身も心も女になったのです。

　今、クリームヒルトさんは十四の春を迎えています。