第27話 兄貴も疑っている?
「な、長引かせる方が辛くなるよな」
しかし麻央も怒らせると怖そうだ。二者択一。この場合、まだ身内の方が問題は捩れなくて済むだろう。それに、食事中や食後だと怒り難いのではないか。そんな計算も働く。
ということで、昴は先ほどまでいたダイニングへと舞い戻ることにした。するともう翼は食事を終え、コーヒーを飲んでいるところだった。時間はすでに十時過ぎ。准教授ともなると色々と忙しいようで、帰宅時間は毎日違うのが当たり前のようになっている。
「なあ」
「電話は終わったのか?」
声を掛けると同時に先制攻撃を食らってしまった。昴は何で解ったと、座ろうと引いた椅子で足をぶつけてしまった。
「いそいそと出て行ったからな。何だ、恋人でも出来たか?」
「まさか。電話してきたのは川島さんだよ」
そう言うと、さすがの翼も予想外であったらしい。一瞬、きょとんとした顔になった。そして麻央の名前がどうして出て来るんだという顔になる。
「何でもこの間の事件あった事件で、まだ解らないことがあるんだってさ。なあ、二宮先生について、何か知っていることはないか?」
その隙に体勢を立て直した昴は翼の前に座り、捲くし立てるように質問した。下手に考えさせてはいけない。
「ふうむ。まだ解らないことね。で、二宮について。どうしてだ?」
「さ、さあ。それは川島さんに訊いてくれよ」
そこまで考えていなかったと、説明は麻央に頼むことにする。それに翼はふうんと、また適当な返事だ。どうやらお腹一杯の状態らしい。ふむ、作戦としては成功か。
「で、どうなんだよ。そう言えば研究室はどうなるんだ?」
「さすがにすぐ廃止とはならないだろう。しかし、事件は知れ渡っているからな。二宮もこの機会に海外に出て研究するかと悩んでいるようだな」
「そうか」
研究の場を変える。それは当然の行動だろう。しかし海外とはいきなりだ。ひょっとしてという思いがあるだけに、色々と考えてしまう。ということで踏み込んだ質問をするしかない。
「その海外でって、前からあった話なのか?」
「そうだな。あの大学の准教授になるか、それとも海外に行くか。以前も悩んだことがあるらしい。研究者ならば誰でも通る悩みだな」
そんなにも以前からかと、慶太郎は自分が大学に入る段階ですでに准教授だったなと思い出す。ということは、誘いの話があったのは四年前からということか。
「それに今、准教授という立場にあるからといっても、研究者をやっていれば何度か悩む問題だな。国内の研究機関は限られていることだし、海外を視野に入れるというのは当然だ。自らの分野を追求すればするほど、その悩みは大きくなる」
「なるほど」
疑う要素にならないと断言され、それもそうかと納得した。これでは慶太郎が怪しいとはならない。それにしても今の話、それは翼も何度か悩んだということではないか。ずっと国内で研究しているものだと思っていただけに、これは意外な思いのするものだった。
「何を探っているか知らないが、二宮が何か悩んでいるようなことは聞いたことがないな。困っていると言ってきたこともない。しかし、人が何をどう考えているかなんて、傍から見て解りようのないことだ」
まるで人の心を見透かしたようなことを言っておいてと、昴は翼がますます解らなくなる。ひょっとしてすでに翼は裏に何かあるのではと考えているのだろうか。しかし、これに関して翼が何か言わないことは解る。不確かだからだ。
「ううん」
「まあ、二宮の行動には何かと謎があるな。素粒子の研究者となれば、実験の連中とよく議論するだろうし、そうなると工学系の連中を知っていてもおかしくない」
「――」
まさかと昴が顔を上げた時には、翼はすでにコーヒーを飲み終えて立ち上がっていた。そして風呂に入ると出て行ってしまった。
「ううん。兄貴も疑っていると考えていいのかな」
別の謎が発生しただけで終わったぞと、速攻で麻央にメールするのだった。
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