第15話 意図せずギャップを作ると虜にできる説
先日、腰まで伸びていた髪をばっさり切った。
三月に美容院の予定を入れていたのが、あれよあれよと言う間に自粛期間が始まり行けなくなってしまっていたのだ。
元々天然パーマでウェーブがかっている上、長くなってくると輪をかけて広がってしまうため、いい加減限界に達していた。
決めた後の行動は速いもので、その日の夜には翌日指定でカットの予約を入れていた。
LINEのアプリを操作して手続きしながら旦那様に告げる。
「明日、帰りに美容院行ってくるね」
「うん」
「ご飯遅くなるのか…」とぼやかれたけれど構っていられない。
というか、旦那様も会社から帰ってきて家で別途会議すると言っていたので、食事の時間がずれることに問題はないはずだ。
寧ろ予定のある日に合わせた私は偉いと自己評価しつつ、久しぶりに自分を整えることにうきうきしていた。
翌日、仕事帰りに美容院に寄り、20センチほどカットしてもらった。
傷んでいた部分が綺麗になくなり、梳いてもらったので頭も軽い。
最後にヘアアイロンでストレートにして、これからデートにでも行くかのような仕上がりになった。(実際は家に帰るだけだったけれど)
これで本当に外デートできるようになればいいのに、と思いながら、鎖骨のあたりで切り揃えられた髪を弄んだ。
帰宅すると、旦那様はオンライン会議のため部屋に籠もっており、妻はさっぱりした気分のまま食事作りに取りかかった。
それから約1時間後。
とうに料理もできて食べ終わり、寛いでいたところに、会議を終了した旦那様が部屋から出てきた。
「奥様おかえりー…!?」
顔を見るなり動きを止めた旦那様は、妻を立たせてあらゆる方向から観察し始めた。
そういえば結婚してから髪を切るのは初めてだった、と今更ながら思い至る。
何ならつき合っていた頃も、遠距離恋愛だったため相手の変化に気づきにくい環境だったのは確かだ。
イメチェンしたところですぐに見せられるわけでもなし、昨日と今日でシルエットが違うなんて状態には物理的にならなかった。
だからこそこれほど驚いているのだろうと推測していると、じっくり眺めていた旦那様から最初の感想が出てきた。
「可愛い!!」
大絶賛だった。
それはもう力いっぱい称賛してくれた。
特に旦那様に気に入られたいとか褒められたいとか考えていたわけではないのだけれど、意図せずギャップを作ってしまい、結果大成功だったようだ。
結婚してからも、いや、結婚したからこそ、毎日のスパイスとしてこういった変化は大事なのだなと改めて思う妻だった。
恋愛結婚は糖度過多が通常運転です。 青桐美幸 @blue0729
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