第14話 お互いの苦手を補って心地良さを倍増する

 旦那様はいつもガスの元栓を閉め忘れる。

 キッチンに立つのは良い。できあがった後で使った物を洗って片づけてくれるのも良い。

 けれど、ガスの元栓を閉めることだけはいつまで経っても覚えてくれない。

 その度に妻が突っ込み、謝りながら旦那様が閉めにかかる。

 注意することで自覚を促しているし、旦那様自身も気をつけようという意識を持ってはくれる。

 それでもやっぱり次またコンロを使った時、ガスの元栓は開けっ放しになっているのだ。

 同じことが何度か続いた後、とうとう旦那様が宣言した。


「俺にはできないから奥さんに任せる」


 正直なことを言うと、面倒だなと思った。

 どうして妻が毎回チェックしなければいけないのか。どうして旦那様はできないのか。

 だって妻はできるのに。

 ただ、できる人間とできない人間がいるのは事実だ。

 これはやる気や能力の有無ではなく、あくまで本人の本質や性質でしかない。

 つまり仕方がない。

 旦那様ができないというのなら、できない部分は妻が補うしかない。

 ということを勉強したので、面倒な気持ちがありながらもガスの元栓チェックを請け負うことにした。

「言わなくても自分で気づいてやってよ」ではなく、「閉め忘れてるからやってね」とお願いするようにしている。

 前者ならお互いぎすぎすした空気になることは自明の理だからだ。

 けれど後者なら、妻は旦那様がやってくれたことに満足できるし、旦那様は妻が気づいてくれたことに感謝してくれる。

 お互い心地良く過ごしたいという願いがあるのだから、それを着地点としてどう伝えるべきか、どういう行動を取るべきかは考えどころだ。

 この「ガスの元栓問題」をきっかけに、改めて2人の在り方について見直した妻だった。


 ちなみに、この話が出た時に、


「じゃあ、妻ができないことは旦那様がやってね」

「奥さんができないことって何?」

「……今特に思い浮かばない」


 と言ったら旦那様は意気消沈してしまったのだけれど、きっと妻が気づいてないだけで旦那様に助けてもらっていることは絶対あるに違いない。

 それに気づいた時は、きちんと旦那様に感謝しようと思う妻だった。

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