第10話 得意料理と苦手料理

 結婚するまで実家暮らしで料理どころか手伝いすらしなかった妻は、それはもうエベレスト並に高いハードルに挑む気持ちで料理に手をつけた。

 実際やってみると、料理ができないのでも決して嫌いなのでもなく、ただただ面倒な作業(野菜を切るとか味付けを調整するとか)をやりたくなかっただけだと知った。

 半年経った今では、レパートリーは少ないながらも食べられる物を作れるようになったし、旦那様も美味しい美味しいと言いながら食べてくれる。

 そんな中でも、やはり苦手な料理は存在するのである。


 それが玉子焼きだ。


 何度やっても綺麗に巻けない上に、溶いた卵を二重三重に重ねていく量のバランスが未だにわからない。

 おかげでお弁当に玉子焼きが入ることは滅多になく、大抵はスクランブルエッグを手早く詰めてしまう。

 でも、たまに無性に玉子焼きが食べたくなる時がある。

 そんな時はストレートに旦那様にお願いすることにしている。


 そう、旦那様の得意料理は玉子焼きなのだ。


 ちなみに他の料理は一切作れない。

 とにかく包丁を握ることが苦手らしく、妻としても怪我するぐらいなら握らなくて良いと思っているので、別段不都合はない。

 ただ、妻の苦手な玉子焼きだけは、どういうわけかとても簡単に形を整えて出来上がる。

 一度作るところをじっくり観察しながら説明を聞いていたのだけれど、いざ自分がやってみるとどうしても旦那様と同じようにいかない。

 それからは、玉子焼きがほしくなったら完全に旦那様を頼ることにしている。

 旦那様が玉子焼きだけ上手く作れる謎は今も解明されないままだけれど、妻は苦手な玉子焼きを作れる旦那様に感謝しているし、そんな妻の喜ぶ顔を見て旦那様は満足しているので、結果的に双方にとってメリットがあってよかったと思っている。

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