会社員と緑の守護者(20)

大木の姿は見えない。しかし、声が聞こえた。


「大木はどこだ?」


グラグラ……


地面の揺れが大きくなってきた。


立っているのも辛くなり、俺とアスカは地面に手をついて揺れが収まるのを待つ。


バゴ! バゴォ! バガァン! 


大きな音と共に、地面に亀裂が入った。亀裂は大きくなり、地面の下から巨大な木の根っこが出てきたかと思うと、木の根っこから若葉が生え、急速に成長していった。


あっという間の成長を遂げた若葉は森の奥で見た大木へと成長した。


『はっはっはぁ。お前たちも他のエルフと同様、森の一部となれぃ。』


……大木の言葉を聞いてケニーとケニーの姉は険しい顔を見せた。


「よくも仲間を……必ず、報いをうけさせてやる。」


ケニーが古木に憤っている最中にケニーの姉が近づいてきた。


「人間よ、あの古木の足元に泉があるのが見えるか?」


そう言われて大木を見るが……泉らしきものは見えない。


「いや、見えないぞ。どれのことだ?」


「地面と古木が接している箇所の一部に灰色が見えるか? あれがエルフの泉だ。あそこに薬をいれるのだ。ケニーを囮として使う。そなたたちが本命だ。しっかり薬を入れてきてくれ。」


そういって、ケニーの姉は離れていった。実の弟を囮に使うなんて……


それだけ真剣ということだろう。俺は教えてもらった場所を確認する。確かに木に埋め込まれたように、灰色の井戸らしきものが見える。あれが泉なのだろう。


「古木よ! 今日こそ貴様の終わりだ!行くぞぉ!」


『はっはっはぁ。今日こそ森が一つとなる日だぁ。』 


ケニーが雄たけびとともに大木へと迫る。俺とアスカ、ケニーの姉もそれに続いて大木へと走っていく。


大木は葉っぱをゆすり、緑色の狼を生み出した。全方向から緑色の狼が襲ってくる。


「前を切り開く! 俺の後ろをついてこい!」


ケニーが右手を掲げる。光が手のひらに集まったかと思うと、弓の形となった。


ケニーが弓を引きながら飛び上がった。しかも回転している。まるでスケートのジャンプみたいだ。回転をしながら弓を引くケニー。弓に光が集まっている。


「これで決める! ライティング……アロー!」


掛け声とともに着地し、ケニーがしゃがんだ姿勢になって弓を放つ。弓から放たれたのは、大木へと伸びる光だった。緑色の狼はその光に触れると、動かなくなり倒れていった。放たれた一筋の光は少しのズレもなく、泉へとつながる道を作り出していた。


「はぁ、はぁ。さぁ、行け! 今しかない。」


ケニーが弓を放った姿勢のまま俺たちに声をかける。俺とアスカは顔を見合わせ、お互いに頷きケニーを追い越して光の道を突き進んだ。


しかし、すぐに緑色の狼が周囲から、俺たちの前に立ちふさがろうと集まっている。このままではケニーが作った道が無くなってしまう。立ち止まって武器を構えるべきかと考えながら走っていると


「そのまま走って! 援護するわ! ウィンドブレス!」


ケニーの姉の声がしたかと思うと、後ろから強風が吹いてきた。俺とアスカの足が勝手に早く進むほどの強風だ。さっきの速度の倍は出ているんじゃないかと思う。


さらに、強風は緑色の狼が近づいてくるのを阻止している。緑色の狼が強風で飛ばされないように踏ん張っている。


よし! この間に泉まで走りぬけてやる。俺とアスカがさらにチカラを入れて走る。


もうすぐだ。強風の勢いであと少しという距離まで近づいた。狼よりも早く泉に近づけそうだ。


でも、最後の壁が立ちふさがってきた。そう、大木だ。大木の根っこがうねうねと動き、俺たちと泉の間に壁を作ろうとしている。


「どうするディー? 」


ここまできたのに……手間取っていると緑色の狼に追いつかれてしまう。


「まだだ! 諦めるな! 俺が道を作る!」


俺とアスカを飛び越えて、影が大木へと向かっていった。ケニーだ。

ケニーが俺たちを追い越していった。ケニーが大木へと迫る。大木の根っこは俺たちよりもケニーを脅威と感じたのか、ケニーに向かって根っこを勢いよく伸ばした。


ケニーは根っこを避けなかった。


「ケニー!!」


「……今の内に走れぇ!!」


俺とアスカは……


……約束通り、泉へと薬を入れた。


「そうだ、よくやった。」


ケニーは微笑んでいた。


「「ケニー!」」


木の根っこと同化しているように見えるケニーから赤い液体が滴り落ちていた。

それを見た俺とアスカはケニーに向かって声をかけていた。



戦いの最中なのに。



ケニーが何かに驚いた顔をした。何かを叫ぼうとしていた。しかし、俺とアスカには暗闇が覆いかぶさり、それが何か知ることが出来なかった。



俺とアスカは大木に取り込まれてしまった。

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