総族長の遺書


 ヴラド・ドンさんは孫の顔を見て二年後に他界しました。

 五百歳までにはいかなかったようですが、大往生といってよいでしょう。


 ヴラドさんは苦しい息の下から、

「ベルタとカミーラを……捧げる……その代価として……ヴァンパイア……とモンスター……たちを……このお造りになった世界……ヴィーンゴールヴを……」


 葬儀は国葬となりました。


 マルス文化圏の、三惑星の主要施設では弔旗を掲げました。

 それは一年掲げられることになったのです。

 ルシファー様が弔辞を読み、惑星ヴィーンゴールヴは一週間、休みとなりました。


 ヴラド・ドンさんの遺書が一週間後に公開されます。

 そこにはルシファー様に妻を捧げるとあったのです。


 一年後、ヴァンパイア六支族長、及び二人のヴァラヴォルフ族代表がルシファー様に対して嘆願したのです。


 ヴァンパイア六支族長の代表は、

「全住民の総意として、遺言を受け入れていただきたい」

「ルシファー様がお作りになったこの世界を私たちはいただいた、総族長はその永続を願っておられた」


「献上品は、ルシファー様と世界を結ぶ永遠の絆、我が身の最後に、最愛の妻と娘を献上して、絆を確固たるものにしたかったのです」


 アンネリーゼ・フリードリヒ・フェルディナント……そう、最後のヴァラヴォルフ族の一人であり、モンスター地区の第一執政、ドイツメイドハウス・ハウス・バトラーでもある、アンネリーゼさんが言葉を続けました。


「惑星ヴィーンゴールヴは、私たちが授かった初めての世界……皆、何よりも大事に思っているのです」

「その大事な世界を私たちがあずかっています、一族から一人は、ミコ様のご寵愛をいただいています」

「総族長はさらに妻を献上することにより、ミコ様と絆を深めておきたかったのでしょう」


 もう一人のヴァラヴォルフ族、ジャンヌ・マルグリット・ブリジット・マリー・ドルレアンさんが、

「ヴァンパイア族には、客妾に近い風習があります」

「とても大事なお客様に対しては、その家の女がお客の相手を務めるのです」


「普通はそのために娼婦を手配するのですが、総族長は最後の願いとして、大事なミコ様をもてなし、永遠に惑星ヴィーンゴールヴの女神となって欲しかったのでしょう」


「私見ですが、ヴラド・ドン総族長は最愛の妻に、惑星ヴィーンゴールヴの行末を見せたかったのでしょう……」


 この時、ルシファー様は、ベルタ・ドンさんがある出来事を解決したことを高く評価しており、閨の後、佳人のチョーカーを授けたのです。

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