ヴラド・ドンがなくなった……

　ベルタ・ドンは、惑星ヴィーンゴールヴのフィメール・ドミナンスになっていた。

　息子とモンスター族の嫁の間には孫もでき、徐々に二つの種族は共存に向かい始めていた矢先……ヴァンパイア至上主義がはびこり始めた……

　このままではまずいことになる。

　闇に葬るために、おおっぴらに首謀者を処分できる、あるイベント開催を宣言した……

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　惑星ヴィーンゴールヴに、ヴァンパイア族が移住して八十年近く、ベルタ・ドンさんは『おばあちゃん』になっていました。

　夫が勘当した息子夫婦に子供が出来たのです。

　あれほどモンスター族の血が混じることを嫌ったヴラド・ドンさんでありますが、孫が出来た瞬間に、そのようなことは綺麗さっぱり忘れてしまったようで、孫が可愛くて仕方ないようです。

　孫の顔を見たいばかりに、自ら息子夫婦の自宅に入り浸る始末。

　挙句の果てに、息子の妻である琴音さんまでほめちぎっています。

「よくやった！あんたは世界一の嫁だ！息子は果報者だ！」

　とヴラド・ドンさんは云うのです。

　ベルタさんはおかしくてしょうがない。

　夫のこのような姿は見たことが無いのです。

　ベルタさんが、

「いつも苦虫を噛み潰したようなのに、こんなにはしゃぐなんて……琴音さん、ありがとうね」

　息子のゲオルグさんは珍しく妻はこの琴音さんだけ、側女をすすめられても断固として断る律義者。

　周りはこのままでは総族長の家が絶えるのではと、心配していたのです。

　そこへ奇跡のように子供が授かった、しかも男の子、立派なものがついています。

　これは大変な事……そもそも種が違う……というより、モンスター族は生物がどうか怪しいものもいます。

　事実、琴音さんがそうです。

　琴の付喪神の琴音さん、その彼女がゲオルグさんと枕をかわし、精を身に取り込み、子を身籠る……

　本来は絶対に不可能、ありえないことですが、人型になっているモンスター族、なにかが変わってきているのです。

　はっきりいえば人型が常の姿、こちらが本当の姿になりつつあります。

　八十年の年月、徐々にわかってきたことがあります。

　モンスター族の成り立ちについては、どうやら残留思念が絡んでいるらしい……

　ヒューマノイドの心、いわゆる魂の残骸が、何かの拍子に憑代と一体化した……

　そんな仮説がモンスター族の学者から提出され始めています。

　しかしそんなことはどうでもいい、全てのモンスター族は根っこに『人』の魂がある……実際子供が生まれているのです。

　つまりヒューマノイド、いや『人』のカテゴリーに分類される存在……

　ヴァンパイア族が『人』から進化した種族である以上、どこか通じるところがある……

　そして、ルシファー様に献上品を出すために人型を取り始め、急速に変化を始め、ついに性交まで可能となった……

　そして子供まで授かりだした……

　いがみ合ってきた二つの種族の垣根が徐々に崩れていく……

　このことはルシファー様、つまりはヴィーナス様とイシスさんの姉妹にとって、あることを意味していました。

　有機体ヒューマノイドという視点に立てば、アンドロイドとホモ・サピエンスも性交し、子を身ごもることが可能……

　二人は話し合った結果、今はこれ以上の交雑は禁止する。

　そのように決めたようです。

　ただ惑星ヴィーンゴールヴに住む、この両種族にたいしては黙認することにしたのです。

　とにかく二つの種族とも個体数が極めて少ない、惑星ヴィーンゴールヴ移住時、ヴァンパイア族は二万五千名を多少超えるぐらい、モンスター族は少し多く三万名程度、互いの第一都市と言えど、人口二万程度の小さい都市なのです。

　八十年たったいまでも、惑星ヴィーンゴールヴの人口は十万も超えていない状態、牛が二桁多いかもしれない、牧畜の星といっても良い状況です。

　とにかく生まれた子は間違いなしにヴァンパイア族、そして琴音さんの血も引いているのか、異様に聴感がいい……