小間使い 其の一


 この時の対抗戦を、ヴラド・ドン・ヴァンパイア総族長の妻、ベルタ・ドンさんが見ていました。

 次の日、ブランチを兼ねて、総族長夫妻はともに食事をしながら対抗戦を話題にしていました。


 ベルタさんが、

「ねえ貴方、ラダが活躍していましたよ」


 ヴラドさんが、

「そうか……あの小さかったラダがな……一号生徒にもなったし……」


 ベルタさんが、

「とても凛々しかったわよ、相手の一号生徒、鈴姫さんといったかしら、良いライバルになれそうよ」


 ヴラドさんが、

「そりゃあ、そうなってもらわねば……メイド任官課程だからな……ところで相手の鈴姫という、モンスター族の娘さんはどんなだった?」


 ベルタさんが、

「こちらもどうして、とても綺麗だわよ、二人とも大したものね」


「技量は?」とヴラドさん。

「技量?」とベルタさん。


 ヴラドさんが、

「ルシファー様をお側近くで守れるか、ということだ」


 ベルタさんが、

「まず、そこらの不埒な輩はぶちのめせるでしょうが、なぜ聞くの?」


 ヴラドさんが、

「実はな、今朝サリー様から急な知らせがあってな……ルシファー様が一週間ほど、アールヴヘイムンへ視察という名目で休暇を取られるとか……」

「ルシファー・ステーションには、十分ほど停車するので警備を強化してほしいと要請があった……」


「……貴方はチャンスと考えたのね……」とベルタさん。


 ヴラドさんが、

「ヴィーンゴールヴの女は素晴らしいと、認識していただきたい……」

「幾人かルシファー様のお側に侍っているが、さらに増えれば望ましい」


「で、二人をお目通りさせたい……」とベルタさん。


 ヴラドさんが、

「その通り……小間使いとしてといえば、サリー様も断ることは出来まい……サリー様さえご承諾いただければ……」


「確かにルシファー様は、サリー様にはね……」

 ベルタさんは、夫の目論見が実現すると確信しました。


 そして、

「あの二人なら……ルシファー様はお気に召されると思うわ……ことは急を要するわね、アンネリーゼとジャンヌにも、話を通さねばならないわよ」


 ヴラドさんが、

「ヴァラヴォルフの二人か……わしはどうも苦手だ……狼女は好かん……お前、うまく話を通してきてくれ」


 ベルタさんは夫のこのような言葉に肩を竦めましたが、とにかく二人の執政に話を通しました。


 さらに二人は軽いけがをしているはず、ベルタさんは、所用でアルデアルに来ていた三好糸女さんをすぐに呼びました。

 今の惑星ヴィーンゴールヴにおいて、医療魔法を使える者は、糸女さんしかいないのです。


 ベルタさんが、

「三好さん、ラダと鈴姫の怪我を、昼前までには治していただけませぬか?」

「二人を今夜、ルシファー様のご旅行のお供に差し出したい……うまくいけば……」

 糸女さんはすぐに意味が分かりました。


 そして新たに寵妃が生まれる可能性……そして自分が可愛がっている鈴姫さんの、望外なチャンスの為にも全力を傾けると云いました。


 学校にいたラダさんはすぐに呼ばれました。

 鈴姫さんは学校にいた所を、ジャンヌさんに迎えに来られ、すぐにルシファー・ステーションのホテルへ向かいました。


 ラダさんを治療し、ベルタさんと糸女さん、そしてラダさんは、鈴姫さんとジャンヌさんが待つホテルへ……


 そして糸女さんは、鈴姫さんの治療に取り掛かります。


 ほどなくして怪我が治った鈴姫さん、医療魔法の絶大な効力に驚きながら、皆が待つホテルの一室へ……


 ラダさんも鈴姫さんも何の説明もされていません。

 何が何だかわからぬうちに、偉い人に引っ張りまわされたためか、キョトンとしています。


 ベルタさんが、

「この度の事の説明をしなくてはいけませんね、本当は主人のヴラド・ドンが説明しなければならないのでしょうが、なんせ女の話、主人は無骨者で、私が代わりに説明いたしましょう」


 今夜ある列車が停車する、二人はそれに乗り込み惑星アールヴヘイムンへある人のお供をする。

 期間は一週間、その間、学校は公欠とする。

 そしてそのある人とは、ルシファー様……

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