全員準備の事……

　審判の声が響きます。

　フィールド中央に白砂が盛られ、『棒』が突き立てられます。

　用意はいいか……

　そしてホイッスルが鳴り渡りました。

　ラダさんは全力疾走で走りましたが、籠目（かごめ）高女の生徒に間一髪で取られました。

　すかさずラダさんはタックルで相手を倒し、『棒』を奪い返します。

　ここで早くも相手が反則、ラダさんの顔面にパンチが入ったのです。

　顔面は『素肌』ということで反則なのです。

　その瞬間に反則者はフィールドの外に強制転移、試合が止まることはありません。

　ラダさんはすぐに集まってきたクラスメートの一人に『棒』を渡し、エヴァさんとイリナさんの二人と代わるために走っていきます。

　やはりというか、二人は鈴姫さんにかなりやられています。

　ボロボロといっていいでしょうが、二人は何とか鈴姫さんの足を止めていたのです。

「代わるわ！フィールドの外にでて！良くやったわ！」とラダさん。

　二人は鈴姫さんの顔面にパンチをかまして反則、フィールドの外にでました。

　ラダさんは鈴姫さんと乱闘を始めています。

　ダチアはラダさんの作戦通り、一丸となって『棒』を死守、じりじりと籠目（かごめ）のゴールへ肉薄します。

　鈴姫さんが、

「うまいわね、でもまだまだよ」

　云った瞬間に、ラダさんは腕をとられ転がされたのです。

　いわゆる合気道の『片手持ち隅落し』と、いうやつです。

　鈴姫さんはラダさんを転がすと、ダチアの集団に突っ込みます。

　二三人、鈴姫さんが引きずり出している所へ、ラダさんが追い付き、鈴姫さんを羽交い絞めにしたのです。

　ラダさんは意外に怪力……

　技においてはかなわないと理解したのか、鈴姫さん相手にパワー勝負に出たのです。

　ラダさんはボディに、鈴姫さんの蹴りをかなり食らいながらも、なんとか抑え込んでいます。

　そしてとうとう、プロレス技の足四の字固めを決めることに成功しました。

　鈴姫はかなり痛そうにしていますが、悲鳴など上げません。

　歯を食いしばり、ラダの足に手刀を振り下ろしますが……

　細身ですが、鍛え抜かれたラダさんの身体は、力をゆるめません。

　かなり打撲を受けましたが、華奢な鈴姫さんの手刀では、ラダさんの足に致命傷を与えることができないのでしょう。

　とうとう鈴姫さんは相打ちを選択したようで、死力を振り絞り、体制を裏返しにすること成功したのです。

　足四の字固めは裏返ると、かけたほうが痛いといわれていますが、実際は両方とも痛い……ただ体の大きいほうが有利というだけです。

　ラダさんは激痛に悲鳴が出そうでしたが、鈴姫さんが声を出さない以上、意地でも悲鳴など上げないと決意しています。

　鈴姫さんはラダさんのおかげで自由が取れず、鈴姫さんに頼り切っていた籠目（かごめ）は、ついに自分たちのゴールに『棒』を突き刺されたのです。

　ダチアの生徒は狂喜していますが、ラダさんが、

「私たちは互いに健闘した、相手をたたえましょう、籠目（かごめ）の皆さん、貴女たちは見事でした」

　こういいながら、倒れて悔しそうな顔の鈴姫さんに手を差し出しました。

　鈴姫さんは、差し出されたラダさんの手を取りました。

　そして晴々した顔になると、「ありがとう」とだけ云ったのです。