一泡吹かすべし
ゾーイさんはぱっと見は二十歳を超えて見え、公称二十三歳とのことに納得ですが、実際はいくつなのかは極秘なのです。
なにせヴァンパイア族は非常な長命、数百年の寿命を持ちます。
処女をルシファー様に捧げといっても、百合の女になったゾーイさん。
ある部族の族長の娘でもあるゾーイさんには、昔、妻になる約束を交わした男がいたのです。
主戦派の部族の族長の次男、オットーです。
しかしオットーはルシファー様に惨殺されました。
戦いに出た二万五千の主戦派は瞬時に殺され、魔眼はくりぬかれ、総族長の屋敷に積み上げられたのです。
その中に、オットーのものも入っていたはずです。
絶対の忠誠を誓った以上、すべてのヴァンパイア族は生死をルシファー様に預けたことになります。
初夜権さえもルシファー様は握っているのです。
一度は刃向ったヴァンパイア族は、それゆえルシファー様の信任を得ました。
いまやヴァンパイア族は、ルシファー様にとって生体における最有力軍事組織。
その中でもブラッド・メアリーの戦闘力は高く評価されています。
ゾーイさんは心のどこかで、ルシファー様を憎んでいることを自覚しています。
しかしルシファー様に抱かれ、体が官能に抗えないのも自覚しています。
ヴァンパイア族が、種族滅亡の淵に立たされたのも、救われたのも、ルシファー様のおかげ、そしていまの平安もその力によることを知っています。
部屋の片づけもひと段落、慣れない事をすると疲れる物で、ゾーイもお腹がすいてきました。
近頃はヴァンパイア族も、酪農などをしてミルクはなんとか自給できるようになってきたのです。
乳牛のミルクから作る血液飲料はおいしいといえど、近頃は惑星フルーツガールから、ホモ・サピエンスの母乳が手に入るようになってきました。
それから作るフレッシュ血液は、さらにおいしい……
ゾーイさんが、
「たまには贅沢しましょう」
と云って、惑星フルーツガール産ホモ・サピエンス母乳を買いに、なんと惑星ヴィーンゴールヴの衛星軌道に浮かぶ、ルシファー・ステーションまで出かけることにしたのです。
まだ目的の母乳は、ここでしか手に入らない限定商品となっているのです。
「はやく下でも売り出さないかしら……もうすぐとは聞いているけど……」
その頃、惑星ヴァルホルの『グラズヘイム』と呼ばれる場所で、六人の男が会議をしていました。
ガッルスと呼ばれる男が、
「女どもとの戦いは避けられない状況だ……どうだろう……ひと波乱起こして、かき回してみるか……うまくいけばルシファーの首も……」
「ガッルス……策はあるのか?」
と指導者であるキュベレー総裁が聞いています。
ガッルスと呼ばれた男は、
「私の策など、ミハエルから見れば笑止かもしれぬが、しかし……この策なら尻尾は掴まれはせぬ……」
そしてある策を披露した。
キュベレー総裁が、
「面白い……ヴァンパイアを利用するのか……」
ガッルスは、
「結果はどうなるかはわからんが……一泡吹かせることは出来ると確信する」
「いま、フルーツガール産ホモ・サピエンス母乳は、ルシファー・ステーションとか呼ばれている所でだけ、配布しているようだ」
キュベレー総裁が、
「ルシファーの女どもは、例のナノマシンが守っている……しかし解除ぐらい簡単な事だ……」
「ナノマシンは私に任せてくれ……極秘事項なので詳細は話せないが、それとなくナノマシンをだますことは出来るのだ」
キュベレー総裁は円卓に連なる他の五人、円卓の五長老に向かってニャッと笑った。
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