ブラッド・メアリーのハウス・バトラー、ゾーイ。

　東欧系の顔立ち、背が高く足が長い、申し分のない女で、『夫人』のチョーカーを身に着けている。

　彼女はじっと目の前の簡易造血装置を眺めていた……それにはゾーイの隠された過去が……

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　惑星ヴィーンゴールヴの夜は月がない、しかし夜空には、ルシファー・ステーションが明るく輝いて見える、人々はそれを月に見た立てている。

　夜が深まり、ヴァンパイアといえどベッドに入る深夜、ゾーイさんは目の前の簡易造血装置を眺めていた。

　そしていつもの言葉、誓いを呟いたのです。

　ルシファー様……このゾーイは貴女様の物です……いついつまでも……

　惑星ヴィーンゴールヴに、ヴァンパイア族が移住して間もない頃、まだ当時は『最後の審判戦争』の直前でした。

　ブラッド・メアリーのハウス・バトラーであるゾーイさんは、ヴァンパイア地区の第一都市アルデアルの、自分のアパートメントで荷物の片づけをしていました。

　小さい恒星アースガルズと、一個の惑星によるこのアースガルズ星系は、もともとテラの人類のマルス移転が難しくなった場合、緊急退避用にと、ルシファー様のしもべであるマレーネさんが作り上げた人工星系です。

　褐色矮星や大きめの浮遊ガス惑星を何百個かくっつけて小さい恒星とし、さらに銀河をふらついていた浮遊岩石惑星を公転させたのです。

　当時のテラにおけるナーキッドの本拠地、レイキャネース・ハウスの転移先としてである。

　ルシファー様の本拠地とも呼べる、惑星エラムの環境を一年で再現したのですが、人類が何とかマルス移住が成功し、ルシファー様がこの人工星系をテラでの貢献を評価して、ヴァンパイア族とモンスター族に与えたのです。

　ヴァンパイア族は主流である主戦派がルシファー様に牙を向け、その結果、主戦派二部族は殲滅させられました。

　五万名いた一族は、二万五千名に半減、対立していた穏健派と中立派である弱小六部族は降伏し、なんとか種族としては生き残ることができたのです。

　ヴァンパイア族は人類、つまりクロマニヨンより枝分かれしたホモ・サピエンスで、より進化したホモ・サピエンスの捕食者です。

　血液という高カロリーなものを主食として、人種的にはより進化した存在ですが、その主食ゆえに人類に寄生する状態になったのです。

　しかし、人類の血液は徐々にヴァンパイア族の口に合わなくなっていたのです。

　明らかに種族として衰退していまはたた。

　この種族個体の減少は、ヴァンパイア族衰退に拍車をかけると思われていました。

　もはやヴァンパイア族は滅亡が定まったかと思われたのですが……

　ルシファー様はヴァンパイア族の降伏を良しとし、食糧である人類の血液の代用として、哺乳類の高タンパク飲料ともいえるミルクから、新鮮血液を作り出す造血装置を与えたのです。

　しかも簡易造血装置も大量生産し、それをヴァンパイア族に下賜したのです。

　ヴァンパイア族はルシファー様をメシア、ヴァンパイアの女帝と仰ぎ、絶対の忠誠を誓いました。

　その証として、六部族は部族から選り抜きの女をルシファー様の奴隷として差し出したのです。

　その一人がゾーイさんです。

　六名の中の総族長の娘であるカミーラさんは別格として、残りの五人もかなりの美女、ルシファー様の身辺警護の意味もあり、女兵士というべき娘たちです。

　彼女らはブラッド・メアリーと呼ばれ、ルシファー様の寵愛の印でもあるチョーカーを身に着けています。

　その中でもゾーイさんは、夫人という一つ上の位を授かっているのです。