次の日、琴音さんは何事もなく、朝から鈴姫さんを誘い登校、休憩時間になるとマシンガントーク。

　片や鈴姫さんは無口……

　それでもこの二人、妙に気が合うようで、何をするにも一緒、琴ちゃん、鈴ちゃんと呼び合う仲となりました。

　そして五月に入りました。

　社会見学旅行が皆の関心事となりました。

　例年、女専課程の第一年、つまり六回生は一泊二日で社会見学旅行に行くのです。

　結構な強行日程なのですが、そこは若い女学生、毎年大騒動が起こります。

　クラスメートたちは、

「ねぇ、今度の社会見学、テラのカムチャッカらしいわよ？」

「あんなとこ行って、何するのかしら？」

　琴音さんが、

「ビーフハンバーガー、食べられるかしら……」

　鈴姫さんは吹きそうになりました。

「そうね……私も……ビーフ……いいわね……牛丼なんか食べられるかしら……」

　クラスメートの一人が、

「二人とも馬鹿ね、牛肉なんて、テラではバンバン食べられるわよ、南米からドンドン入ってくるそうよ」

「よだれが出そう……」と琴音さんがいいます。

「もう、琴音ったら太るわよ」

　クラスメートはそんなセリフを残して、別の友達のところへ。

「ところで、鈴ちゃんは買い物に行かないの？」

　琴音さんが言葉を続けます。

「買い物？」と鈴姫さん。

　琴音さんが、

「いやね、旅行に行くのだから、服とか靴とか有るでしょう？」

　鈴姫さんは、

「そういえばトランクもないわ……カバンではだめかしら……」

「カバン？」と琴音さん。

「このカバン……」

　鈴姫さんは教科書が入っているカバンを指差します。

「ダメに決まっているじゃない！着替えも入らないわよ！」

　琴音さんに叱られた鈴姫さんです。

「明日、妹とお買い物に付き合う約束なの、一緒に買い物に行かない？」

「でも……」と鈴姫さん。

　琴音さんが、

「明日は土曜日、休みでしょ、いくらメイド任官課程生でも、休みは外出可能って知っているでしょう」

「確かに……門限までは自由だけど……」と鈴姫さん。

「じゃあ、決まりね」と琴音さん。

「どこへ行く予定なの？」と鈴姫さん。

　琴音さんが、

「タナトス・シティの逢魔街、ファションのお買い物といえば、あそこしかないでしょう！」

　逢魔街というのはタナトス・シティにあっては若者の街、ちなみに一番の繁華街はドラゴン・ストーリーと呼ばれる地域で、いわゆる銀座みたいな所、マルス資本のデパートなどが軒を連ねています。

「逢魔街？あそこはガラが悪いと聞くわ……」と鈴姫さん。

　琴音さんが、

「平気平気、裏通りに入らなければ大丈夫、九時に寄宿舎前のバス停で妹と待ち合わせなの」

　あれよあれよというまに、お買い物の約束などしてしまった鈴姫さんでした。

　で、翌日の午前九時、琴音さんの妹、篠笛(しのぶえ)ちゃんは、約束通り待っていてくれました。

　とても可愛い娘でツインテールの髪型、すこし気が強そうです。

　その篠笛(しのぶえ)ちゃんが、

「初めまして篠笛です、鈴姫さんですね、綺麗だわ……お姉ちゃんとは大違いね、上品だし……」

「篠笛！」と琴音さん。

　篠笛(しのぶえ)ちゃんが、

「ね！お姉ちゃんはすぐに大きな声で怒るのよ、それにね、デリカシーもないのよ、この間なんか、家に帰ってきたら、お風呂から裸で出てきて、胡坐をかいて髪を拭いていたのよ、信じられないわ……」

　さすがは琴音さんの妹、篠笛ちゃんです。

　おしゃべりは姉妹共通ですね。

　でもバラしすぎのような……

　琴音さんが鬼のような顔で、

「篠笛！許さないわよ！」

「お姉ちゃん、ごめんなさい」

　と鈴姫さんの後ろに隠れる篠笛ちゃん、このあたりは天才的です。