お隣の琴音さん


 琴音さん、すこしおっとりとした、ポチャっとした色白の美少女です。

「私……鈴姫……鈴の付喪神……私で良ければ……」としどろもどろの鈴姫さん。


 琴音さんは琴の付喪神なのですが、蔵に所蔵されていた和楽器がそのまま命を持ったようで、和太鼓がお父さん、三味線がお母さん、横笛が妹らしいのです。


 今日は午前中で授業は終わり、二人は食堂へ一緒に行くことにしました。


「妹は篠笛(しのぶえ) といってね、これが生意気なの、何でもお母様にいいつけるのよ!」

 琴音さんはおしゃべりのようで、自分の事を隠すことなく喋ります。


 鈴姫さんの方はといえば……「私は……家族がいなくて……」などと、ポツポツと小さい声で喋ります。


 琴音さんが、

「このハンバーグ、合挽ミンチだけど、ポークが多いわね、でもおいしいわね♪ビーフステーキなら、もっといいけど、仕方ないわね!」


 鈴姫さんが、

「そうね……ビーフは……高くて無理ね……」


 突然、琴音さんが、

「ねえ、鈴姫さん、無口なのね、こんなおしゃべり女、嫌い?」

 すこし真面目な顔が、鈴姫さんの前にあります。


 鈴姫さんはかなり真剣に首を振りました。

「琴音さん、私こそ嫌いなのでは……出来たら私は、琴音さんがお友達になってくれれば……」


 そして初めて、鈴姫さんは自ら喋りました。

「私は……付喪神でしょう……古い小さな神社の、納屋の片隅に長く転がっていたの……」

「物心ついたときから、神社に住んでいたのだけど、誰も来ない山奥の神社、一人ぼっちだったの……」


「テラの大騒動の話も、幼い私には聞こえなかったのだけど、たまたま阿波の糸引き娘である、三好糸女(いとじょ)様が神社の前をお通りになり、私に声をかけてくださったの……一緒に来ないかって……」


 琴音さん、鈴姫さんの話に割り込みますね。

「で、どうしたの?」


 鈴姫さんは、

「私……恥ずかしくて……ぐずぐずしていたら……糸女(いとじょ)様、私を鈴に戻して抱えてくれて……」

「そのままヴィーンゴールヴに連れていただいて……しばらく糸女(いとじょ)様の小間使いをしていたのだけど……」

「糸女(いとじょ)様が……編入試験を受けなさいと云ってくださって……受けたの……」


 琴音さんが、

「受けたのね、この籠目(かごめ)高女を」


「そう……で……これを授かったの……」

 と鈴姫さんはピンクのシルバーリングを見せました。

 なんとなく恥ずかしくて、隠すようにしていた小指にです。


 琴音さんが、

「鈴姫って、メイド任官課程だったわよね、私も高女課程からのメイド任官課程なのよ」

 と同じくピンクのシルバーリングを見せてくれました。


 琴音さんと一緒に鈴姫さんはメイド任官課程の寄宿舎に。

 まだ片づけていない少ない荷物をほどき、一人で部屋を片付け、夕食まで時間が出来ましたのでボーっとした鈴姫さんです。


 琴音さん……いい人ね……明日もお話できるかしら……私、嫌われていないかしら……

 お友達になれるかしら……


「寮生は集会室へ集合してください」

 廊下に設置されていた、スピーカーから流れてきます。


 メイド任官課程の百十名が集合します。

「新入生は前に出てください」

 高女課程と女専課程の新入生が前に集まります。


 この後、色々寮の規則が説明されます。

 寄宿舎は午後五時半が門限、夕食は六時、七時から八時半まで、メイド任官課程の特別授業があるそうです。

 その後は消灯まで自由です。


 一応世の中通りに土日はお休み、一日自由ですが門限消灯は変わりません。

 外泊は許可制、親元に帰るなどの理由が必要などなど……


 寮生は班別に分けられるそうです、十班あり一つの班は十一名、班長と副班長は八回生がなるのだそうです。

 鈴姫さんは六班となりました。

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