ミコ・キッカワ
その女はミコ・キッカワといいました。
信じられないことに、シェリルさんより若干年上ぐらいの美少女で、ハニーエンジェルでは抱かれる方の部類の女です。
しかしミコ・キッカワは死にかけている女、アデラインさんを指名し、これを抱いたようです。
アデラインさんの嬌声が娼館中に響いていますから……
館の主人は何を思ったのか、銃を取り出し、アデラインさんの嬌声が響き渡るベッドルームの外にたたずんでいるのです。
シェリルさんは震えあがりました……
おぞましい女を殺そうとしている、獣のような男……
自分もこのような館の住人、今さらながら落ちるところまで落ちていると、十三歳の少女でも理解できました。
「ママ……」
シェリルさんが呼ぶと、グローリアさんも蒼ざめています。
二人は耐えられなくなって、地下の部屋へ逃げるように戻ったのです。
グローリアさんが、
「シェリル……二人で神様に召されましょう……ここまで落ちたのなら、自分で命を止めても怒られはしないわ……」
シェリルさんが、
「ママ……いいわ……死ぬ方法などいくらでもあるわ……」
「シェリル……ママを許してね……」とグローリアさん。
そして銃声が轟きました……
シェリルさんはその後の惨劇を想像したのですが、全身血だらけで、恐怖に震えた主人が地下室のドアを開けました。
「館の娼婦たちは全員集まれ!お前たち三人もだ……早くしろ!」
シェリルさんたちが地下室から上がっていくと、他の娼婦も全員集まっていました……
中の一人がミコ・キッカワに、質問をしているところでした。
どうやらミコ・キッカワは、アデラインさんを引き取るようです……気に入ったのでしょう……
娼婦の一人が、
「先程、アデラインとの話しが聞こえましたが、私たちも火星に行けるようになるのでしょうか?」
ミコ・キッカワは、
「ついでといっては何ですが、何とか出来るでしょう」
えっ……火星に行けるの?
シェリルさんは耳を疑いました。
火星行きはナーキッドの許可がいるとか……
ハニーエンジェルの住人はまず難しい……娼婦ですもの……
まして私たちは、母娘で売春させられている身……
火星なんて望んでもいなかった……
別の方が、
「失礼ですが貴女は誰なのですか?」
ミコ・キッカワが、
「ナーキッドのオーナーです、一緒についてくる方は?」
グローリアさんとシェリルさんは必至で訴えました、ついていきたいと……
ふと見ると、幼いノーマ・ブラックストンさんは、成り行きが理解できないのか、ぼーっとしています。
シェリルさんは急いでノーマさんの手を掴んで、
「ノーマも希望するそうです!」
と叫びました。
ミコ・キッカワが、
「そうですか、全員ですね……グローリアとシェリルといったわね」
「貴女たちはこの男の妻と娘と聞いていますが、それでも希望するのですか?」
母親のグローリアさんは、はっきりと云いました。
「無理やり結婚させられたのです、娘は前夫との間の子供です」
シェリルさんは、母の必死な気持ちがよく分かりました。
ここで言い淀んでは、このミコ・キッカワは私たちを置いていくだろうと。
その時のミコ・キッカワがまとう雰囲気は、これ以上ないほど冷酷なものだったのです。
アデラインさんが、
「この三人はハニーエンジェルに監禁されて、辛酸をなめてきています、何としてもつれて行ってくれませんか!」
と嘆願してくれました。
母親のグローリアさんは覚悟を固めていたようでした。
「このような境遇です、出来ましたらアデラインさんと同様、私たちもお仕えさせてください」
その後、アデラインさんが側女という位をもらい、ハニーエンジェルの一行は、カナダのナーキッド直轄領であるデヴォン島に設立された、ハレムで働く職員となったのです。
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