17 オリジン-14-

 モニタには見覚えのある映像が流れていた。

 巨大な光が落ちてきて、何もかも焼き払ってしまうその情景は。

 オリジンが見せた、第3ピリオドの結末によく似ていた。

「………………」

 リエは抗議しようとしたが、ショックで声の出し方を忘れてしまった。

 モニタに映っているのは夜のハズである。

 しかし2人にはその様子がはっきりと見えていた。

 光の球はもうなくなっていた。

 あれは少し前、地面の奥深くに沈み込んだ。

 光源は山だった。

 山火事ではない。

 山そのものが燃えていた。

 地面を這い登る海水が届くところには、土以外のものは一切存在しない。

 それより上の、かつて山だった高地だけが赤々と炎をあげている。

「なぜ、だ……?」

 カイロウはそう問うしかなかった。

 何もかもが分からなくなり、何もかもを信じたくなくなっていた。

「第5ピリオドを終わらせた」

 なぜ、という質問はいつもロボットを困らせる。

 答えが複数あるし、質問者の意図も読み取らなければならないからだ。

 だからオリジンは過去のデータから、彼が求めていそうな答えを選んで返すことにした。

「お前たちがここにいるのがその理由だ」

「なん――?」

「つまり人間がクジラに接触できるだけの知識と技術を獲得したということ。そして信仰の対象であるクジラに物理的に反抗する思考をし、それを実行できるようになったこと」

 オリジンは彼が一度言っただけで理解できるように数秒待ってやった。

「それだけの進化を遂げたという証拠だ。その後の展開はデータが証明している。お前たちはその技術と思考を用いて――やがて戦争を始める。

その規模は短期間のうちにこの星全体に及び、人間は自ら滅びようとするだろう。加えて――」

 高名な予言者のような語りは、データに裏打ちされた自信――つまり確度の高さ――の表れだ。

 過去から未来を推測したがるのは人間に限ったことではない。

 しかし情を差し挟まない点において、オリジンは人間がするそれよりもはるかに優れていた。

「このピリオドにおいて人間は我にとって脅威となった。したがってフェイズ8から10へと移行したのだ」

 その判断も、実際に手を下したのも自分だ、と機械の声は告げた。

「人間を……管理すると言いながら……脅威だから滅ぼしたというのか?」

 あまりにも身勝手な言い分であり、目的と行動が一貫していないとカイロウは責めなじった。

「人間には管理する者が必要だ。我なくして人間の永続はない。この星には我が必要なのだ」

「神を気取るつもりか! そのわりに人間に怯えるなんてずいぶん小物だな。お前は所詮ロボットだ! 作り物だ!」

 どんなに拙くてもいい。

 子どもの口げんかのようだと思われてもいい。

 とにかく思いつく限りの悪口雑言を並べ立て、彼は激しく批難した。

 そうしなければとても自分を保てそうになかったのだ。

 何十万人、何百万人が住む町を焼き払われた苦痛から逃れるには。

 そうするしかなかった。

 自分の家も、妻の墓も、施設も。

 原形どころかそれらを構成していた一部分さえ残らず消滅しているであろう現実は。

 娘を奪われた時よりも、ずっと受け入れがたいものであった。

「その作り物に未来を託したのはお前たち、人間だ。そしてその方法について我は一切の制約を受けていない」

 皮肉を言うだけの人間性があったワケではない。

 これは長い年月の中で人間という生物を観察し続けた結果、学んだ切り返し方のひとつである。

「昔の連中はバカだな。自分たちが作った物ひとつ満足に動かせないとは。これが企業のやったことなら責任者の首が飛ぶぞ」

 後悔はいつしても遅い。

 過ちに気付いた頃にはたいてい、取り返しのつかない事態に陥っている。

 オリジンは言った。

 ピリオドを打った理由は、2人がここにいるからだと。

 おそらくこの部屋に入った直後には、引き金は引かれていたのだ。

 だから彼ができ得る限りの最短の手順でこれをしたとしても、町が消失するという結末は変えられなかったにちがいない。

 しかし彼は人間だから。

 手遅れだと分かっていても、大部分の感情と少しばかりの理性に従って行動した。

 音がした時にはオリジンの額には穴が空いていた。

 古ぼけた最新のロボットに、この時代の銃が役に立つとは思っていなかった。

 しかしそうしないワケにはいかなかった。

 人間を弄び、勝手な論理で滅ぼし、育て、蹂躙する悪魔には。

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